ミャンマー・ヘルスフォーラムに参加して ―保健への投資が人間中心の開発を達成するための鍵
- レポート
- ミャンマー
2015.8.20
国内外から約700人の参加者が一堂に会した歴史的な会議となった
2015年7月28日・29日の両日にわたってミャンマーの首都ネピドー(NPT)の国際会議場Ⅱ(MICCⅡ)において「ミャンマー・ヘルスフォーラム」が保健省(MOH)主催で開催されました。参加者総数約700名(うち国際機関・国際NGOなどから約200名および全国の保健行政の責任者約500名)が一堂に会したミャンマーの保健史上画期的な第1回目のヘルスフォーラムとなりました。私どもジョイセフも参加する機会を得ました。フォーラムのテーマは「保健への投資:人間中心の開発を達成するための鍵(Investing in Health: the Key to Achieving a People-Centered Development)」で、保健が人間中心の開発において欠かせない「投資」であるというメッセージを国内外に発信しました。
2011年に民政移管されて以来4年。ミャンマーでは目下多くの分野で将来の指針計画づくりが行われています。このフォーラムは保健分野の将来に向けた弾みとなる会議と位置づけられると思います。
ミャンマー政府の保健政策の優先事項、今後の方向性、戦略などが話し合われたフォーラムでは、ミャンマー政府が2000年に掲げたHealth Vision 2030を再確認し、そのもとで、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成を目標にすえた熱心な政策議論が展開されました。中でも3大感染症(HIV、マラリア、結核)や妊産婦死亡率・乳幼児死亡率低減などが継続的な取り組みとして再確認されました。妊産婦・新生児保健ほか公衆衛生の向上と医療ケアサービスシステム、つまり予防と治療の統合事業の強化も話し合われました。
今回のフォーラムでは中長期的な目標が確認されたと思います。具体的な行動計画は、さらに関係部局で検討されることになります。今回のフォーラムが今後のミャンマーの保健事業にとって全国規模の中・長期計画を見据えた包括的な指針を話し合うための重要な会議となったことは間違いありません。参加した筆者もその歴史的な熱気や息吹を感じつつ参加しました。ミャンマーは現在、経済的な投資で熱いと言われていますが、あわせて保健分野でのさらなる投資が必要であるのは、どの保健指標の低さからみても一目瞭然です。
ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の2030年までの達成を決めているミャンマー保健省は、UHCの理念を掲げ保健目標を設定し、保健システム強化や各分野での具体的なアクションを策定しています。今回、分科会などでは、UHC達成のためにもっとも重要で基礎的な保健の要素として、草の根の一人ひとりに届く母子保健事業の地域社会における推進を掲げています。分科会では、保健医療の末端で活動している助産師などの人材の抜本的な不足が検証されました。あわせて、医療従事者と地域を結ぶ、地域に根差した母子保健推進員などの地域保健ボランティアのシステム強化も課題となりました。
ミャンマーもミレニアム開発目標の達成では、依然として多くの問題を残しています。先述した3大感染症(HIV、マラリア、結核)は、ミャンマーの死因のトップ10に入っていますし、妊産婦死亡率・乳幼児死亡率はアセアン地域で最も高い状況を示しています。女性にとって自己決定権達成のための家族計画へのアクセスも課題の一つです。保健人材の不足は歴然としています。医師はおろか助産師がいない地域が多く存在します。基礎的な保健パッケージ(Essential Health Package)をすべての住民に提供することもまだ十分に達成できていません。2016年から始まる「持続可能な開発目標(SDGs)」においても、全ての関係者のさらなる努力が求められます。
ジョイセフとしては、地道であっても地域に根差した着実な人材養成やコミュニティでの保健ボランティア(母子保健推進員)の養成などを通して、ミャンマー全土の8割を占める農村地域における妊産婦の健康改善や乳幼児の保健推進のためのコミュニティレベルの能力強化に資する活動を推進していきます。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の目標のもと、コミュニティレベルにおける保健システムの強化と質の高いヘルスケアの向上を目指す「好事例」の発信をしていきたいと思います。目下JICA草の根技術協力事業(パートナー型)で実施しているチャウンゴンタウンシップでの「農村地域における妊産婦の健康改善のためのコミュニティ能力強化プロジェクト」を通じてミャンマーの保健向上に貢献できればと願っています。
(2015年7月、ネピドーにて、報告者:鈴木良一)