人口問題協議会・明石研究会 国連世界人口推計をどう読むか ―国連人口部「世界人口の見通し(2015年版)」―(後編)
2015.9.15
- レポート
- 明石研究会
3.人口転換-出生率低下が決め手
世界・途上地域の人口増加が減速し、高齢化が始まっているのは、出生率が低下しているからである。後発途上諸国・アフリカの人口増加の勢いが強く、子ども・若者人口が多いのは今なお出生率が高いためである。
図表13. 世界の合計出生率の推移
- 世界・途上地域の合計出生率(TFR)は1960年代後半を境にして低下を続け、2010-15年の各々2.51と2.65まで低下した。
- 先進地域は人口置換水準以下のTFRが続いている一方、後発途上諸国の出生率は低下が遅く、今日なお4.27の高さである。
開発水準別
Source: 図表1と同じ。
主要地域別の合計出生率の推移
- 地域別にはアジア、ラ米のTFRは順調に低下しているが、アフリカのTFRはなお4.71の高さである。
- アジアの中では東アジアの低下が急激であり、現在、唯一人口置換水準を下回る。
出生率の多様性(3つのグループ)
- 低出生率国(TFR<2.1)-世界人口の46%:全ヨーロッパ・北米、アジア20カ国、ラ米17カ国、オセアニア3カ国、アフリカ1カ国
- 中間出生率国(2.1≦TFR≦5.0)-世界人口の46%:132カ国(大国では、インド、インドネシア、パキスタン、バングラデシュ、メキシコ、フィリピン)
- 高出生率国(5.0<TFR)-世界人口の9%:21カ国中、アフリカ19、アジア2
図表14.世界の高出生率国と低出生率国のトップテン:2010-15年
- 現在、世界の高出生率国トップテンは9カ国がアフリカにある。最高のTFRはニジェールの7.63である。
- 低出生率国トップテンはアジアの5カ国とヨーロッパの5カ国である。最低のTFRは台湾などの1.07である。
世界の平均寿命(男女込み)の推移
世界ならびに途上地域(アジア・ラ米が中心)の平均寿命は順調に伸び、いずれヨーロッパ・北米に近づくが、後発途上地域・アフリカの平均寿命の伸びは90年代に停滞している。
図表15.世界の高寿命国と低寿命国のトップテン:2010~15
- 今日、高寿命国のトップテンは平均寿命(男女込み)が80年を超える。
- 今日、低寿命国トップテンはすべて平均寿命が55年未満でアフリカに属する。
- 今日、世界の平均寿命は68.7年である。
図表16.中国とインドの人口転換:合計出生率と平均寿命の推移
- 中国の人口がやがて減少を開始し、急速な高齢化が進むのは、急速な出生率低下を経験し1990年代以降TFRが人口置換水準を下回っているからである。
- インドの平均寿命はなお70年を下回り、TFR低下は緩やかで、今でも置換水準を上回っている。そのため、今なお子ども人口の割合が高く、今後50年以上人口増加が続くことになる。
Source: 図表1と同じ。
4.近年、世界人口推計の上方修正が続く理由
(1)世界人口の推計の上方修正が続いている
- 国連の世界人口の推計値は、「1990年推計」までは上方修正を続け、その推計では、2050年で100億人、2100年で110億人を超えると推計された。
- しかし「1990年推計」以降は、下方修正が続き、「2002年推計」では2100年でも90億人と推計された。
この時期、世界人口増加の終焉説(IIASA(国際応用システム分析研究所): W. Lutz)が唱えられた。 - ところが、その後の推計では再び上方修正が続いており、今回の「2015年推計」では、再び2050年に100億人に近づき、2100年には110億人を超えると推計している。その理由は?
世界人口推計は1951年から国連が数年おきに実施しているほか、世界銀行、IIASA、米国センサス局が独自の推計を出している。詳細は、阿藤誠『現代人口学』日本評論社2000年;United Nations Population Division, World Bank, US Census Bureau の各homepage; W. Lutz et al., The End of World Population Growth in the 21st Century, Earthscan, 2004 を参照していただきたい。
(2)世界人口推計の上方修正の主な理由:出生率低下の停滞
- いま「1998年推計」(世界人口60億を発表した推計)、「2010年推計」(世界人口70億を発表した推計)、今回の「2015年推計」の世界人口の推計値を比べると、いずれの年次でも新しい推計ほど推計値が大きくなる。
- ここで「98年推計」、「10年推計」、今回の「15年推計」の人口動態の仮定値を比べて見ると、世界の出生率(TFR)の見通しは継続的に上方修正されていることが分かる。(たとえば、2020~25年のTFRは「98年推計」では2.23であるのに対して、「10年推計」では2.33、「15年推計」では2.43と、0.2高まっている。)
それに対して、平均寿命の改善傾向は「98年推計」と 「10年推計」では変化が小さいものの、「15年推計」では上方修正がみられる。(例えば2020~25年の寿命は、「98年推計」では71.9年、「15年推計」では72.7年と、0.8年伸びている。 - 以上から、(a)2000年代、2010年代に出生率の低下が90年代に想定したほど急速に進行しなかった(出生率低下がやや停滞した)ことが世界人口の上方修正の主な理由であり、(b)平均寿命が想定以上に伸びたことは副次的理由と考えられる。
(3)世界人口推計の上方修正の主な理由:アフリカにおける出生率低下の停滞
- 地域的にみると、アフリカの2050年人口は、「98年推計」に比べると「2015年推計」では7.11億人多い。これは、世界人口の2050年推計値の両者の差(8.67億人)の82%に相当する(換言すれば、世界人口の上方修正の大部分はアフリカ人口の上方修正で説明できることになる)。
- しかるに、アフリカの場合も、「98年推計」と「2015年推計」の人口動態の仮定値を比較すると、平均寿命も2.1年上方修正されているが、出生率の上方修正幅が大きい(たとえば、2020~25年のTFRは「98年推計」の3.10から「2015年推計」の4.14にほぼ子ども1人分上方修正されている)。
- 以上から、出生率低下が2000年代、2010年代に停滞したことがアフリカ人口の上方修正の主な理由と考えられる(アフリカの平均寿命改善の上方修正は副次的理由)。
(4)アフリカにおける出生率低下停滞の理由:
アフリカの出生率低下が停滞した理由は、避妊普及の遅れにある。
アフリカの避妊実行率は1990~2015年に13%から28%にしか伸びず、アンメットニーズ(再生産年齢既婚女性のうち避妊実行者の割合と家族計画を希望しながら実行していない女性の割合)はなお28%と高い水準にある。
避妊実行率とアンメットニーズがサハラ以南のアフリカでは、1990~2015年に避妊実行率は13%から28%にしか伸びなかった。そのため、アンメットニーズはなお24%ある。
国際資金援助の重点が家族計画からエイズ阻止にシフト
アフリカにおける家族計画普及の遅れは、1990年代半ば以降に、
- 保健分野の国際的資金援助が感染症の予防・治療(とりわけHIV /エイズの感染拡大防止)に集中し、他分野の資金が不足したこと、
- リプロ・ヘルス分野の中で、家族計画以外の分野では援助が増加したのに対して、家族計画分野の国際資金援助は逆に減少傾向を辿ったことによるものと言われる。
図表17.1990年代半ば以降、家族計画への国際的資金援助は3分の1に低下
(1995~2007年に9億8千万ドルから3億4千万ドルに低下)
出典:Population Council (Bongaarts,J. et al.) , Family Planning in the 21st Century, のFigure1.1 (p.4)
HIV/エイズの拡大阻止
この時期に、国際的な資金協力の急拡大により、アフリカにおけるHIV/ エイズの新規感染者数の増加は止まり、感染拡大は防止されつつあると言われる。このことがアフリカの寿命改善仮定の上方修正の大きな理由と考えられる。
講演後、参加者たちとの意見交換が行われた。
発言の中のキーワードの主なものは、以下のとおりである。
①人口増の結果「アフリカの時代」がくるのか、②人口増のフロンティア、③推計は仮説のシナリオ、④人口は、開発、環境、食糧、資源などとの関連で、長いスパンで考える基本となる、⑤日本は高齢化のトップランナー、⑥先進国の人口減少と移民
文責:編集部 ©人口問題協議会明石研究会
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