スラムの住民の健康を守る(下) ー ナイロビ・イーストリーユースセンター
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2016.9.30
【上編からつづく】2016年9月上旬、国際家族計画連盟(IPPF)のケニア加盟協会(IPPFケニア)の施設を、ジョイセフ職員が訪ねました。IPPFケニアは、現地ではFamily Health Options Kenya (FHOK)の名で広く知られています。今回は、スラムが多いナイロビ東部で、生活が苦しい若者も気軽に立ち寄れ、情報や医療サービスを受けられる「イーストリー・ユースセンター」を紹介します。
ナイロビ・イーストリー地区にあるユースセンター
- IPPFケニアが提供する、若者が集まることができる場所「ユースセンター」は国内8カ所あります。ナイロビのイーストリー地区のスラム近くにあるイーストリー・ユースセンターで活動しているのは、医師を含むスタッフもボランティアも20代~30代です。訪問者と友達のようでありながら、親身に接しています。
このユースセンターの特徴は、医療サービスやカウンセリングなど従来のユースセンターの機能だけでなく、ウェブデザインなどのIT技術を教える職業訓練校「ナイロビッツ」と連携して、コンピュータールームを設置していることです。
高校を卒業したばかりの若者中心に30人が平日、毎日学びに来ます。大学に行きたくても学費が高いため、また、就職難が続くケニアではIT技術は就職に有利なため、費用が安いこの施設を利用しているのです。経歴書の書き方の指導、就職のあっせん、起業支援、そして性と生殖に関する健康と権利(SRHR)の提供もしています。19歳のステーシー・アティエンコさんは、「グラフィックデザインを学びに来たけど、 IT技術だけではなく、性と生殖に関する健康と権利(SRHR)の新しい情報がもらえて良い。学校では教えてくれなかったことを知ることができる」と話していました。 - センター長で26歳のジョセフィーヌ・シロ・キムさん。温かく訪問者に接します
ウェブデザインなどを学ぶ生徒たち
さらに、ユースセンターには体を鍛えるためのジムやビリヤード台もあります。ITスキルを学びに来たり、ジムに来たり、レクリエーションに来たりした若者が、ユースセンター内のクリニックに立ち寄って気軽に医師に相談し、HIVなどの性感染症の検査や子宮頸がんの検査をし、集会所で同年代の仲間と、自分の生活や悩みを話し合うことができます。医療費は10~24歳は無料、25歳以上は少額を支払うシステムです。お金を節約するため、昼食を食べないことも多い訪問者やボランティアにとって、無料や少額の医療費は大きな助けとなります。また、ユースセンターはバナナやマドレーヌなど簡単な軽食を用意して、イベントへの参加を勧めることもあります。
「本当の男は女性を殴らない」などと壁に書かれたジムで体を鍛える若者
レクリエーションでスイカ割りを体験
なお、この地区はイスラム教徒が多いため、性や身体、異性との交際に関することは胸襟を開いて話しにくい場合があります。医師のアレックス・ムトカさんは29歳。「イスラム教徒の若者が婚前交渉を持つことは別に珍しくありません。宗教のことは私からは聞きません。若者が差別を受けたり、孤立したりすることがないよう、話しやすい環境をつくるようにしています」と話していました。
医師のアレックスさん。ここには薬剤師がいないため、薬の処方も自分で行っている
また、毎週水曜日には、SRHRの話題を中心に、参加者が自由に自分の意見を述べ合う集会が開かれます。訪問日は「愛(love)」「欲望(lust)」「心酔(infatuation)」の意味について、参加者11人が自由に意見を出していました。集会の中では「マスターべーションはモラルに反する」「女性を殴るのは愛情の一表現」と述べる参加者もおり、考え方の違いが顕著に表れる場面もありました。なお、ケニアでは女性に対する暴力(Gender Based Violence)が深刻で、IPPFケニアによると、暴力を振るわれる経験をしたケニアの女性は49%に上ります。若者同士でこのような意見交換をすることから、思いやりや想像力を深め、特に女性や少女のエンパワーメントにつなげるのが大きなねらいの一つです。
集会で自由に意見を述べ合う若者たち
さらに、ユースセンターでは月1回、手芸品など自分の作品を販売できる展示会もあり、若者の貴重な収入源となっています。ブレスレットを販売していた23歳のマーサ・コンべさんは「技術や創造性があって、自分のやる気もあれば、大学に行かなくても道を切り開くことができる。私は仲間3人で4年前から、SRHRについて扱うインターネットラジオ局を運営しています。まだ収入はないので、早く軌道に乗せたいです」と自信を持って話していました。ユースセンターは単にレクリエーションや医療サービスを提供するだけでなく、若者の現実的な生活支援の場でもあり、そして主体的に活動することで、自信を持てる場所となっているのです。
自分の作品を販売できる展示会
上編のスラム内のクリニック、そしてこのユースセンターの訪問は、外務省の「NGO海外スタディ・プログラム」を活用して実現しました。このプログラムで、2016年8月1日からの1カ月半、IPPFアフリカ地域事務局(ケニア)・IPPFアフリカ連合連絡事務所(エチオピア)・IPPFの加盟協会であるIPPFエチオピアとIPPFケニアで、インターンをしました。
草の根の活動から、国際会議での政策提言まで幅広い活動を展開しているIPPF。ジョイセフもIPPF東京連絡事務所として、アフリカと日本の懸け橋となるようさらに連携を深め、世界中の人々の健康と権利の向上に向けて活動を推進していきます。なお現在、ジョイセフはアフリカのIPPF加盟協会との連携では、ザンビア、タンザニアでプロジェクトを実施しており、2016年度中にガーナでも開始予定です。