【平成29年度人口問題協議会・第1回明石研究会】「日本の将来推計人口(平成29年推計)」をどう読むか

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2017.6.26

国立社会保障・人口問題研究所は、平成27(2015)年国勢調査の確定数が公表されたことを受けて、これを基に新たな全国人口推計(日本の将来推計人口)を行い、 平成29(2017)年4月10日にその結果を公表しました。

人口問題協議会・明石研究会では6月1日、「日本の将来推計人口(平成29年推計)をどう読むか」をテーマに、国立社会保障・人口問題研究所の石井太・人口動態研究部長にお話しいただきました。研究会の主宰は明石康:人口問題協議会会長・ジョイセフ会長、座長は阿藤誠:人口問題協議会代表幹事(国立社会保障・人口問題研究所名誉所長)です。

以下は講演概要です(なお、資料は同研究所のホームページに掲載しています。)



阿藤誠:
本日の研究会では、新しい将来人口推計を担当された石井部長をお招きして、ご講演いただく。石井部長は、厚生労働省の数理の技官から社人研の研究職に移られた方で、死亡率の分析がご専門である。

石井太:

将来推計人口 将来推計人口は、今後の施策、経済活動等の立案に際して、それらの前提となる人口関連の基礎資料として利用される。客観性・中立性を重視するため、人口投影(population projection)手法により科学的推計を行う。人口投影とは「これまでの趨勢がこのまま続くとすれば」という前提に立つものであり、未来を予言・予測することを目的とするものではない。日本の将来推計人口は、全国の将来の出生・死亡・国際人口移動について一定の仮定(出生が3通り、死亡が3通りの計9通り)を設定して計算している(対象は外国人を含めた日本在住の総人口)。公的年金の財政検証等さまざまな施策の基礎資料として利用されるものである。

推計の方法
国際的に標準とされる人口学的手法に基づき、人口変動要因である出生、死亡、国際人口移動について、 それぞれの要因に関する実績値に基づき、その動向を将来に投影する形で推計している。 基本推計は、平成27(2015)年までの実績値をもとに、2065年までの人口について推計したものである。

推計の結果
長期の合計特殊出生率(2065年)は、中位仮定では1.44であるのに対し、高位仮定では1.65、低位仮定では1.25となっている。一方、長期の平均寿命(2065年)は、男性84.95年、女性91.35年となっている。
今回の推計によれば、21世紀は人口減少社会となることが見込まれる。総人口は、平成27(2015)年国勢調査による1億2,709万人から推計期間を通じて一貫して減少することが見込まれ、2065年には8,808万人と推計(出生中位・死亡中位推計、以下同様)される。老年人口割合は、平成27(2015)年の26.6%から2065年には38.4%へと上昇する。
今回の推計結果を、平成24年推計と2060年時点で比較すると、総人口は8,674万人が9,284万人、老年人口割合は39.9%から38.1%と、人口減少の速度や高齢化の進行度合いは緩和している。老年人口のピークは2042年で前回と同じ(老年人口は3,878万人から3,935万人へと増加)となっている。

2015年と2040年、2065年の人口ピラミッドの変化を示すと次のとおりであり、2065年では今後の低出生率の継続により、若年者の人口の規模が小さくなっていき、全体に占める老年人口の割合が大きくなっているとの特徴が観察できる。

出生の仮定設定
出生仮定の設定にあたっては、基準時点で出生に関する実績がないコーホートである2000年出生コーホートを参照コーホートと呼び、合計出生水準のベンチマークとしている。参照コーホートの合計特殊出生率は、結婚する女性の割合(1-50歳時未婚率)、夫婦の最終的な平均出生子ども数、離死別・再婚の影響度という要因に分解されるが、それぞれの要因を実績統計に基づいて延長投影すると将来の世代に向けてコーホート合計特殊出生率の水準は低下していくことが見込まれ、今後も少子化の傾向は引き続いていくものと見込まれる。

条件付推計
平成29年推計では基本推計の他に、条件付推計が附されている。条件付推計とは、仮定値を機械的に変化させた際の将来人口の反応を分析するための定量的シミュレーションであり、概要版では、出生率と外国人の国際人口移動の水準を様々に変化させた際の将来人口に関する反実仮想シミュレーションの結果を示している。これは人口投影に基づく基本推計とは性格が異なるものである。

阿藤誠:ありがとうございました。石井部長から社人研の最新の将来人口推計についてご説明があった。
それでは質疑に入りたいが、はじめに明石康・人口問題協議会会長にコメントをいただきたい。

 


明石康:
石井先生の精密なデータを前に、消化しかねるほどの情報をいただいた。
2014年12月に人口問題協議会・明石研究会として阿藤先生の指導の下で専門家と共に、日本の将来について「開かれ活力ある日本を創る―鍵を握る女性、若者、高齢者と外国人」という提言をまとめて発表した。日本の人口減少がいかにも急激過ぎて、社会的にマイナスの変化が大きい。これを何とか緩めることができないか、と政治的な要望に結び付ける試みであった。
若い人に希望を与える、特に女性が能力を発揮しやすい社会にすることによって、結婚したいけれどできない人に対してプラスの条件となれば、ある程度人口減少にブレーキがかけられるのではないかと想定した。
一つ目として、人口動態は国によって社会・経済の条件が違うが、合計特殊出生率は例えばフランスでは2.0まで回復しており、スウェーデンでも1.8を超えている。日本でも2003~2005年の1.2台から2012年以降は1.4台までは回復してきた。安倍政権は人口1億人くらいにできないかと表明しているが、素朴な疑問を感じる。石井先生はどのような感想をお持ちか伺いたい。
先生は高位・中位・低位という3つの大きな仮定を使っているわけだが、プラスの仮定で柔軟に考えられないか。
2番目に、65歳以上を高齢者とすることについては、かつての65歳の身体的年齢は75歳にくらい近づいている。65歳以上が2065年には37%くらい、75歳以上は26%前後になるだろうし、「65歳」に線を引いて強調しすぎると悲観的になってしまう可能性もある。
3番目に、日本人の再生産力が低くなっているという人もいるが、前述の明石研究会の提言では若い人の結婚希望自体はかなり高いのではないかということを前提とした。これに対してご意見はどうか。

石井太:最初の質問について、まず将来人口推計とは投影であり、「将来こうなる」というものではなく、あくまでこれまでの趨勢がこのまま続くとすればという前提に立って将来を映し出したものである。これまでの趨勢とは異なる選択や行動をすることによって、実際に実現される未来を投影されたものとは異なる姿に変えることは可能である。
2番目の高齢者を何歳からにするかという点は、50年前と比べると例えば平均寿命などの伸長もあり、これまでとは異なる視点から考えることもできるかもしれない。各歳別の推計も出しているので、それを活用していただければと思う。
もうひとつ、結婚に対する意欲や、社会・経済的背景に関しては、「出生動向基本調査」で調査を行っている。未婚者の結婚意欲は高いとの結果が出ているが、独身にとどまる理由については25歳未満ではまだ若すぎるなどが多いのに対して、25歳以上では適当な相手とめぐり会わないなどが多くなり、結婚を先延ばしにしているうちに結婚できなくなっているというような現状が垣間見える。


続いてさらに意見交換が行われたが、参加者からの発言の主なものは、以下のとおり。

  1.  合計特殊出生率を2020年に1.80とする安倍政権の目標について、希望的観測と言いながらあまりに実現可能性とかけ離れている。
  2.  日本の高度生殖医療は世界で最も進んでいる国のひとつであり、体外受精児の誕生は累計で40万件を超えている。出生人口の5%ほどが高度生殖医療によるのが現状である。
  3. 日本家族計画協会が2002年から2年ごとに実施してきた「男女の生活と意識に関する調査」で、最新の第8回調査結果(2017年)によれば婚姻関係にあるカップルのセックスレスは47.2%と、2004年の調査開始以来増え続けている。
  4. 100万人を超えている外国人人口も、大事な要素として考慮が必要である。
  5. 外国人の受入れに関しては、厚生年金など社会保障の問題も考える必要がある。長期的には受け入れた外国人も高齢化する一方で、出生行動があれば支え手を増やす効果もある。外国人受入れの問題は労働力不足などの短期的な視点で行われることが多いが、人口問題とは長期的な視点で考えることが極めて重要である。
  6.  北欧では、1990年代の少子化に対する対応が日本とは違う。研究会の場でも、常に目的と効果を考える必要がある。外国人労働力受入れについても現実に即して考えなければならない。
  7.  少子化をどうするかについてと政策提言は別の問題であるから、対応は別の議論が必要と思う。日本人が子どもを生み育てたい社会を作ることには大賛成である。希望子ども数と現実のギャップは何か、という政策論争がさらに必要である。
  8.  体外受精を希望する際、卵子提供を受けてでも子どもが欲しいという人が出てきているので、血縁関係とは別に対応を考える法整備が必要だと思っている。

 

阿藤誠:石井さんから将来人口推計の結果について、また方法の説明をいただいた。政策関連の議論も多かったと思う。高齢化要因の一つである寿命の延びに関する議論がなかったのが残念である。

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