モノではなく人。スーダンの母子のためにジョイセフができること
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- スーダン
2017.7.26
砂漠の真ん中を真っ白なトヨタの四輪駆動車で走る。1日300キロを往復すれば、土埃でたった一日できな粉餅のようになる。
一瞬降った雨でできたぬかるみにはまって、汗と土埃にまみれ泥をかき出す横を、ラクダに乗った老人が右手を挙げて挨拶し、悠然と通り過ぎる。
北アフリカ東部に位置し、国民のほとんどがイスラム教徒である、スーダン。北はエジプト、東のエチオピアなど周りを7カ国に囲まれている。日本の5倍の広さを持つアフリカ大陸で3番目に広い国土に、日本の約3分の1の人口が点在する。3月から4月にかけて外気温は45度にもなる。また、この季節特有のハブーブと呼ばれる砂嵐で、飛行機が欠航になることもある。
スーダンでは、プライマリーヘルスケア( 安全な水、予防接種、栄養改善など、すべての住民が健康であるために最低限必要な保健活動)、特に母子保健サービスの課題が多く、妊娠・出産で亡くなる女性の割合は北アフリカ地域の4倍以上* に達する。ここでジョイセフは2016年6月から母子の健康を支えるプライマリーヘルスケアの強化を行っている。地域の人々の自発的な保健活動が生まれる環境づくりのための技術支援である。
*Trends in Maternal Mortality:1990 to 2015, WHO et al., 2015
持ち込むものは「やり方」。
住民主体の保健活動推進に思いを込める
担当スタッフの吉留桂は2017年4月からプロジェクトが支援対象とするゲジラ州とカッサラ州の計15のコミュニティをひとつずつ巡回し、地域保健活動の計画を立てるワークショップを行った。政府職員とチームを組み、日の出と共に宿を出発する。ワークショップの参加者は、地域保健の鍵を握る村長、村落委員や女性委員、保健センターの職員、保健ボランティア、コミュニティ助産師、教員など。参加者の反応も日ごとに変わる。状況に合わせて調整しながら進めていった。
ある村では、ワークショップ開始前に、男性の怒鳴り声が響いていた。「今までこの村には、次々いろいろな奴らがやってきて、勝手に水タンクやらトイレやらを置いていくが、誰も二度と戻って来ない。おまえらは何をしに来た?」と言っているという。確かに、村の学校には大型の水タンクが複数置いてあった。しかしこの村にはそもそも水道も井戸もなく、人々は灌漑用水を飲み水として使っている。
私は身一つなのだ、と吉留は説明した。「皆さんが自分たちの力で村の保健状況を改善していく方法を一緒に考え、皆さんの活動をサポートするために来ました。ですから、どうぞ私を最大限利用してくだい。」
1968年の設立以来、ジョイセフは人づくりを行ってきた。最初は「モノ」を期待されることが多い。でも「モノ」はいつかなくなる。地域の問題を、地域の人自身が解決していく仕組みややり方、そして変えていこうという気持ちを育てることがジョイセフのプロジェクトの真髄である。ジョイセフのスピリットと方法論、そして複数の国での経験をよりどころとして、与えられた4~5時間を有意義にするため、時に寸劇を交えて全身で語りかける。実施チームが、村の人々の計画づくりを熱心に手伝う。ただでさえ暑い部屋に、さらに熱気がこもる。こうして壁いっぱいに貼った模造紙が、村の人たち自身が作った活動計画で埋められていく。
「母子に優しいコミュニティ」。
どう共有するか?
「なんで男が真ん中じゃないんだ」。参加者の男性が質問した。母子に優しいコミュニティが何かを伝えるため、真ん中に赤ちゃんを抱く女性、その周りを家族、医療従事者や宗教指導者といった、女性の健康を支えるために活躍する人々が円を描くように囲んでいるスライドを見せた時のこと。
「なんで女性が真ん中にいると思いますか?」吉留は逆に会場に投げかけた。「母親と子どもは村の基盤だ」などの意見が出される。「この中で女性以外の人から生まれて来た人、手を挙げてください」。会場から笑いが起こる。村人同士の対話の機会を作ることも、ワークショップの大切な役割だと気づく。
動き始めた地域の人々。
最初の一歩である保健活動計画が作られたばかりで、まだ道のりは長い。でもコミュニティ助産師が妊婦さんへの教育活動を始めた、村の保健センターでは故障していた水道を直し始めたり、小さな一歩が始まっていることが聞こえてくる。村の人々の活動が、計画倒れにならないように、継続的に活動を見守ることが必要だ。やることはたくさんある。でも希望がある。
駐在スタッフ吉留からのスーダン便り
スーダンは、紅茶とコーヒーがともに美味しい場所です。生姜の効いたコーヒー、カルダモンやシナモン、ミントの香る紅茶にはたっぶり砂糖が入っており、かなり甘いのですが、朝一番で、食事の後で、仕事の後で、折々に口にする一杯が、心身に沁みます。時々、炭の上に置いた香木が添えられてきます。たいてい数人で一緒にお茶を飲みますが、誰かがまとめてさり気なく支払い、また別の時は、他の誰かがご馳走する。私は自分がご馳走する時は、なんだか仲間に入れたような気分になり、うれしくなります。
私達が活動するスーダンの村は、村人全員が親戚というところもあれば、複数の民族が共存しているところもあります。ワークショップでも、男女が分かれて座り、食事も男女別の村もあれば、一緒の村もあります。ノマドで、1年に数カ月だけ村に暮らし、あとは遊牧しているという家族もいます。学校が多く、学歴の高い人が多い村もあれば、読み書きができる人がごく少数という村もありました。それぞれ、地域に合わせた形で、臨機応変に村の人たちの活動を側面から技術支援してきたいと思っています。
プロジェクト名:プライマリーヘルスケア拡大支援プロジェクト
実施地域:ゲジラ州、カッサラ州、ハルツーム州
対象人口:360万人
実施期間:2016年6月~2019年6月
連携協力団体:スーダン連邦保健省、ゲジラ州保健省、カッサラ州保健省、ハルツーム州保健省、
協力機関:独立行政法人国際協力機構(JICA・技術協力プロジェクト)、株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング(旧システム科学コンサルタンツ株式会社)と共同実施