【平成29年度人口問題協議会・第2回明石研究会】 「国連世界人口推計2017年版」をどう読むか(後編)

2017年8月17日

  • 活動レポート
  • 明石研究会

3.人口増加・高齢化-出生率低下が決め手

人口増加と高齢化の決め手は何かと言うと、やはり人口転換の一部としての出生力転換の時期とスピードである。

世界の開発水準別出生率の推移は、図6のとおりである。

① 世界・途上地域の合計出生率(TFR)は1960年代後半を境にして低下を続け、2010-15年の各々2.52と2.65まで低下した。
 
② 先進地域は人口置換水準以下のTFRが続いている一方、後発途上諸国の出生率は低下が遅く、今日なお4.30の高さである。

世界の主要地域別合計出生率の推移について、図7に示す。


① 地域別にはアジア、ラ米のTFRは順調に低下しているが、アフリカのTFRはなお4.72である。
 
② アジアの中では東アジアの低下が急激であり、現在、唯一人口置換水準を下回る。
南アジア、西アジアは今なお出生力転換途上である。

国別の出生率は多様であるが、下記の3つのグループに分けて考えられる(2010-15年)。
 
① 低出生率国(TFR<2.1)―世界人口の46%:
全ヨーロッパ・北米・アジア20カ国(中国、日本を含む)、ラ米17カ国、オセアニア3カ国、アフリカ1カ国(モーリシャス)。
例えば中国では、TFR=1.60である。
 
② 中間出生率国(2.1≦TFR≦5.0)―世界人口の46%:132カ国(大国では、インド、インドネシア、パキスタン、バングラデシュ、メキシコ、フィリピン)。
インドでは、TFR=2.44である。
 
③ 高出生率国(5.0<TFR)―世界人口の9%:
21カ国中、アフリカ19、アジア2(アフガニスタン、東ティモール)。
例えばナイジェリアでは、TFR=5.74である。

平均寿命

① 世界ならびに途上地域の寿命は順調に伸びてきた(2010-15年世界の女子の平均寿命は73.11年)。
 
② 後発途上諸国の寿命の伸びは90年代に停滞した(後発途上諸国の女性の平均寿命は64.27年)。

ラ米の寿命の伸びは順調で今後先進地域に接近していく(2010-15年女子で77.96年)。
アジアの寿命の伸びも着実である(アジアの女子2010-15年で73.79年)。
アフリカの寿命は90年代に伸び悩み、他地域に大きく遅れをとった(2010-15年の女子で61.90年)。

4.国際的な移民の動向

世界全体では移民規模は増加傾向にあり、純移民の規模(数)は2010-15年に先進地域・途上地域間で1100万人を数える。地域別では、アジア(2010-2015年に550万人)、アフリカ(同330万人)、ラ米(同180万人)は移民送出し地域、ヨーロッパ(同400万人)、北米(同560万人)、オセアニア(同90万人)は移民受入れ地域となっている。
 
*各国の純移民(純移動)は[移入民‐移出民]であるが、一定期間についての[人口増加―自然増加]で得られる。
 
各地域別の主要国の純移民数の推移の特徴は次のようである。

  • 東アジア諸国の純移民数の推移では次の特徴がある。東アジアの先進諸国・地域は、規模は小さいが移民受入れ国・地域で、中国のみが大規模な移民送出し国。
  • 南アジア諸国は移民送出し国で、バングラデシュ、インドの規模が大きい。
  • 東南アジアではフィリピン、ミャンマー、インドネシアは移民送出しの規模が大きく、マレーシア、タイ、シンガポールは移民受入れ国。
  • 西アジアの石油産出国は移民受入れ国。
  • 西欧諸国(特にドイツ、スペイン)・ロシアは大規模な移民受入れ国。
  • 南米・北米・オーストラリアの純移民数の推移では、米国は大規模な継続的移民受入れ国(最近の20年間は年間100万人近い)。メキシコの移民送出しは2000年代後半から激減。
  • 北アフリカ諸国は移民送出し国。規模は小さく5年間で40万程度。

5.世界人口推計の上方修正は止まったか?

(1)世界人口推計の上方修正が続いてきた(表1)

① 国連による世界人口推計は、「1990年推計」による推計値(2100年に110億人)をピークとし、それ以降下方修正が続き、「2002年推計」では2100年が90億人と推計された(この時期、世界人口増加の終焉説(IIASA: International Institute for Applied Systems Analysis 国際応用システム分析研究所、 W. Lutz)が唱えられた)。
 
② ところが、その後の推計では再び上方修正が続き、前回の「2015年推計」では、再び2100年には110億人を超えると推計された。
 
参考:阿藤誠「世界の人口爆発再来か?」『統計』(2016.6)
 

(2)今回の「2017年推計」の世界人口の推計結果は前回推計の結果とほぼ同様

今回の「2017年推計」の世界人口の推計結果は前回推計の結果とほぼ同様であり、上方修正は一応止まったかにみえる。

(3)世界人口推計の上方修正の主な理由:アフリカ人口の上方修正による。

1.地域的にみると、
 
① アフリカの2050年人口は、「98年推計」に比べると「2017年推計」では7.62億人多い。これは、世界人口の2050年推計値の両者の差(8.62億人)の88%に相当する。

② すなわち、世界人口の上方修正の大部分はアフリカ人口の上方修正で説明できることになる。
 
2.前回推計に基づく分析の結果から、アフリカ人口の上方修正の理由は、

① アフリカの出生率低下が2000年代、2010年代に停滞したこと。

② アフリカの寿命改善への懸念が払しょくされたこと。

(4)アフリカにおける予想外の出生率低下停滞と寿命改善の理由

1.アフリカの出生率低下が停滞した理由は、避妊普及の遅れ。

① アフリカの避妊実行率は1990-2015年に13%から28%にしか伸びず、アンメットニーズはなお28%と高い水準にある。

② 国際資金援助の重点が家族計画からエイズ阻止にシフト
 
2.アフリカにおける寿命改善が予想外に進んだ理由は、HIV/エイズの拡大が阻止されたことである。この時期に、国際的な資金協力の急拡大により、アフリカにおけるHIV/ エイズの新規感染者数の増加は止まり、感染拡大は防止されつつあると言われる。このことがアフリカの寿命改善の上方修正の大きな理由と考えられる。

(5)前回推計と今回推計の比較

前回推計と今回推計の比較をすると、アフリカ人口は上方修正された。

① 世界人口に大きな違いはなかったが、これは、アフリカ人口が上方修正、アジア・ラ米の人口が下方修正で、両者が相殺されたことによるものである。

② 前回と今回のアフリカの人口動態の仮定を比べると、合計出生率の仮定は違いが少なく、寿命の仮定は大きく上方修正されている。

③ したがってアフリカ人口の上方修正は、(感染症予防・治療が普及し)死亡率の改善が予想以上に進んだためとみることができる。

(6)アフリカ人口が急増を続けるという見通しに、当分変化は起きないか?

アフリカ人口が急増を続けるという見通しに、当分変化は起きないであろうが、

 ①死亡率の低下・寿命の改善は一時的には人口増加の要因であるが、長期的には出生抑制の大きな要因となり、出生率低下につながることが期待される。

 ②出生率そのものは緩やかに低下しているものの、相変わらず高水準(TFR=5.0前後)にあり、開発努力と同時に家族計画を含むリプロヘルス普及支援の強化が望まれる。

 ③今後の出生率にとっての懸念材料は、米国トランプ政権の「メキシコシティ政策」(中絶反対に絡めた家族計画に対する資金供与停止政策)復活の影響である。

明石 康
① 多岐にわたるお話を聴いた。出生率に対する懸念材料としては、米国のトランプ政権の動きがある。トランプの言動は、ある意味でわかりやすいと同時に、政権がいつまで続くか疑問ではある。2017年1月の就任後半年が過ぎたが、この先も同じ政策か、2018年の中間選挙までか、4年後か、8年後まで続くのか、と世界にとって不安材料がある。今までの米国政権と全く違い、グローバルな思考を欠いていて、われわれにとっても大きな影響があると思っている。
 
② 現在の世界を出生率の3つのグループに分けて考察していたが、人口の46%が低出生率の国が占めていて、その中にヨーロッパや北米のみならず、日本も中国などアジアの20カ国も入っている。これからは人口問題を含む社会政策は、互いに似た問題意識をもつようになっていくのではないか。マクロの見地から有力な意見交換ができるとよい。

③ アジアのなかでも中間出生率国の第2のループの国と、第1グループと分かれているのも懸念される。第3グループの高出生率国のほとんどを占めるアフリカの国々からもっとも影響を受けるのは恐らく欧州諸国だろう。日本の場合は南北というより北朝鮮や中国、台湾との水平的な移動の問題が起こることが考えられる。

④ 心配なのは、合計出生率(TFR)と国家の脆弱性の関係である。冷戦終結前と後の大きな違いは、対立要因が国家間ではなく一国の中での民族や宗教の問題となっていることだ。若者集団を考える際、若年層が増えてもその多くは仕事に就けないし、若者はテロリズムに惹かれやすいなどの現実がある。先進国においても疎外感をもつ若者が増えている。

阿藤 誠
トランプ政権については先行き不透明だと思う。トランプ政権が倒れても共和党が受け継げば政策は変わらないから、家族計画に対する政策(メキシコシティ政策)は続くことになり、国連人口基金や国際家族計画連盟にとっては厳しい状況だと危惧している。

出生率については、国連の出生率仮定設定の際のグループ分けに沿ったものである。3つのグループ分けは妥当なもので、第1グループはいわゆる少子化国で先進グループとして子育て問題・高齢化問題・地方の衰退・経済の停滞など共通の課題を持つ。第2のグループは、いかに早く出生力転換を達成して子どもの扶養負担を減らし、人口ボーナスの利用につなげるかが課題である。第3グループは、出生力転換の前提としての子どもの健康改善・死亡率低下のための保健政策、人的資源向上のための教育投資の拡大が望まれるが、さらにその条件として「良い統治」が継続する必要がある。

脆弱性に関連して、米国などでは、イスラム圏諸国の人口増加が激しく若者が雇用機会を得られない、彼らが不満を募らせ、国内で、あるいは国境を越えて過激な行動に走る恐れがあるという論法でイスラム圏の脅威が議論されることが少なくない。アルカイダやISによるテロ・紛争には様々な要因が絡んでおり、イスラム一般と結びつけることには注意が肝要であるが、途上国の高出生率による若者人口の急拡大はユース・バルジとして「世界人口白書 2014」などでも注目されており、これが人口圧力となって国の脆弱性を高める重要な要素となるものと考えられる。


ありがとうございました。他に、平均寿命の延びについて、アジアで進む高齢化についてなどの意見交換も行われた。

文責:事務局 ©人口問題協議会明石研究会
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