アフガニスタンの女性たち ~ミーナとサラの話
2017.12.28
- レポート
- アフガニスタン
ミーナさんは、3人の幼い子どもの母親です。住む家がなく、親戚の家で家政婦として働き、給料の代わりに住み込ませてもらっています。夫は7年前に薬物中毒になり、半年前から更生施設に入りました。ミーナさんは1人で子どもの面倒を見ながら3人目を2カ月前に出産、生まれたばかりの子どもはへその緒から感染症になっていました。
サラさんは、イランでアフガン難民の夫と結婚し移住してきました。親の反対を押し切って結婚しましたが、現実は厳しいものでした。夫が職を失ったため生活が苦しく、猛暑にもかかわらず住む家も電気も水もない最悪の状況で妊娠しました。なんとか夫の親戚の家に身を寄せ、2カ月前に帝王切開で女の子を出産しましたが、生まれた赤ちゃんはぐったりとして元気がありません。「私の選択のせいで子どもにかわいそうなことをした」とサラさんは言います。産後、貧血を発症し、体調もすぐれない中、パシュトゥー語(※1)が喋れないので、だれにも相談できないと言います。
※1クリニックのあるナンガハール州で使われている言語
貧しさと不安、過酷な現状
これは、ジョイセフが2012年から運営している母子保健クリニックを訪れた2人の女性のストーリーです。ジョイセフが活動するナンガハール州は、パキスタンとの国境地帯で、帰還難民の多い地域です。(※2)そのため、住むところがなく、貧しく不安定な生活を余儀なくさせられている人々が多くいます。また、タリバンやイスラム国(IS)の支配地域も広がっており、治安も悪化の一途をたどっています。簡単に現金化できる薬物の原料、ケシの違法栽培が横行し(※3)、薬物中毒となる農民も少なくありません。
※2 Afghanistan Migration Profile, International Organization for Migration (IOM)
※3 Afghanistan Opium Survey 2016, United Nations Office on Drugs and Crime, Islamic Republic of Afghanistan Ministry of Counter Narcotics
影響はまず女性と赤ちゃんに
そのような状況で最も弱い立場にいるのが女性と乳幼児です。アフガニスタンの妊産婦死亡率は日本の約80倍(※4)、5歳未満児死亡率は日本の約30倍で10人に1人の割合で乳幼児が亡くなっています。(※5)成人女性はさまざまな制約を余儀なくされているため、外で働くことはもちろん、外出も簡単にはできません。夫の収入がなくなったりシングルマザーになってしまった場合は、ミーナさんやサラさんのように収入源を絶たれてしまうこともあります。
※4 Trends in Maternal Mortality: 1990 to 2015, WHO et al., 2015
※5 ユニセフ『世界子供白書2016』
女性たちの駆け込み寺、母子保健クリニック
ミーナさんやサラさんのような女性や乳幼児が安心して診察を受けられるよう、ジョイセフはジャララバード市郊外の母子保健クリニックで母子を支援しています。このクリニックは、成人女性は男性スタッフに肌を見せられないという慣習に対応し、女性スタッフが中心となってサービスを提供しています。政府の方針に基づき、診療や医薬品の処方は無償で行っています。
診察後、前述の2人の女性はこのようにコメントしてくれました。
ミーナさん:「子どもが診察を受けられ、薬をもらえて安心しました。先生も大丈夫と言ってくれました。このクリニックがこの地域にあって本当によかったです。私のような生活が苦しい女性や子どもたちのためにこれからも活動を続けてほしいです。」
サラさん:「このクリニックは私の心の支えです。いつもここにくれば女性のスタッフが親切に相談に乗ってくれます。マラリアになった時も治療できましたし、マラリア予防の蚊帳ももらいました。子どもも診てもらい、私も産後の貧血の治療を受けることになりました。」
半年で5万8000人に保健医療を提供
この母子保健クリニックは、2017年上半期(1月~6月)に、プロジェクト地域の妊産婦と女性、子どもたち延べ5万7929人に対し、保健医療サービスと産前・産後ケア、出産介助、避妊薬(具)の提供、個別カウンセリングなど母子保健に関連したサービスを提供しました。また、1万2671人の子どもと女性にBCG、三種混合、ポリオ、麻疹、破傷風の予防接種を実施しました。診療の待合時間には、妊産婦と女性延べ1万1481人に、啓発教育活動を行いました。
この母子保健クリニックでの活動は、ジョイセフフレンズのマンスリー寄付、支援企業からの寄付(株式会社三菱東京UFJ銀行および株式会社三菱東京UFJ銀行社会貢献基金、一般財団法人クラレ財団、有限会社Office MAMA、平原綾香Jupiter基金、公益財団法人ベルマーク教育助成財団等)、使用済み切手・書き損じはがき等の収集ボランティアの収益によって運営されています。
現地のスタッフからの便り
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ナシマ・サイードさん(アフガン医療連合センター事務局次長)
日本の皆さん、サラームネケヘリ!(こんにちは)
こちらは毎日寒さが厳しくなっていますが、日本はいかがですか。このあたりでは干した羊の肉を塩漬けにした「ラーンディ」という料理を食べたり、ドライフルーツやナッツを温かい緑茶といっしょに食べて寒さに備える時期です。山々には雪が積もり、美しい光景が広がります。アフガニスタンは戦争の前は観光業が盛んで、壮大な自然を見に訪れる外国人観光客であふれていました。しかし、長年の紛争が国を荒廃させてしまいました。生まれ育った愛すべき場所が荒れ果てるのを見るのはとても悲しいことです。特に女性と赤ちゃんが厳しい状況に置かれています。彼女たちのことを考えると何かしなければという思いにかられます。女性の医師や教師がいないことが、女性たちから健康や教育を奪っています。それがアフガニスタンで妊娠・出産で亡くなる女性、乳幼児の死亡率が高い理由の一つです。アフガニスタンでは女の子は2人に1人しか小学校に通えていないのです。 中には幼くして結婚させられ、途中で学校をやめなければならない子もいます。
私は本当に恵まれていました。大学にまで行くことができ、今こうして女性と赤ちゃんを助けるために働いています。この地域で育つ女の子たちが私と同じ機会を得られたらと思います。女性と女の子の未来に光を与えるこのプロジェクトのチームでいられることは誇りです。本当にありがとうございます。いつかぜひこの美しい国に皆さんが訪れることを願っています。