「母子継続ケアとUHC」研修 5カ国から8人が参加

2018年4月4日

  • 活動レポート
  • 人材養成

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage:UHC)とは、全ての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療の情報を得て、サービスを必要な時に支払い可能な費用で受けられる状態を指します。

UHCの実現には、特に以下3つのアクセスの改善が必要です。

  1. 物理的アクセス:地域に医療施設がないなどのことにならないように、インフラ整備と保健人材の確保や偏りの解消
  2. 経済的アクセス:医療費が高くて払えない等、経済的理由から保健サービスを利用できない状態を解消したり、医療費負担による貧困化を予防するための医療保障制度の整備やシステム作り
  3. 社会慣習的アクセス:サービスの重要性・必要性を知らない、家族の許可が得られない等の社会習慣や西洋的医療不信を解消する住民への働きかけ

また、UHCは持続可能な開発(SDGs)でも実現が掲げられています。

UHCは母子保健の観点でも欠かせない視点です。お金がない、医療施設が遠い、母親が医療施設に行くのは後回し…といった理由で母子の健康が損なわれかねない状況があるからです。

そこでジョイセフはJICAの委託を受け、課題別研修「母子継続ケアとUHC」を2018年1月25日~2月16日に実施しました。この研修は2017年度から始まり、今後3年間実施します。今回は、カンボジア・ラオス・ミャンマー・ガーナ・ケニアの5カ国8人が、日本の母子保健の歴史や取り組み、国民皆保険制度、研修員同士の情報交換からヒントを得て、帰国後の活動計画を完成させました。
8人は中央・地域政府の保健担当官であり、行政官として、また実際に医師や助産師として現場でも活躍しています。しかしそれぞれの国や地域には、母子保健の分野において、専門技能者の立会いがない出産、若年妊娠や多産、緊急時の患者の搬送の橋渡し(レファラルシステム)の未整備、人材不足で医療サービスの質を保てないこと、家庭レベルでの知識不足、妊婦健診の不参加の割合、適切な医療が受けられないことによる妊産婦・乳児死亡率の高さなど、多くの課題が山積しています。

今回の研修では、それぞれの課題の解決に向け、どのように最初の行動を起こすか、自分ができることを見つけることを最大の目的としました。当初研修員たちは医療費に占める自己負担率を下げていくにはどのような政策が有効かなど、大きな課題に注目しているようでした。しかし、各国の課題共有と討議のほか、岩手県庁訪問からは地方行政の保健政策への取組みや個人の保健状況を把握するためのITシステム「いーはとーぶ」の活用方法を、また西和賀町(旧沢内村)視察からは1957年に深沢晟(まさ)雄(お)氏が村長に就任してから住民に寄り添ったリーダーシップによって確立に至った保健制度や地域の保健行政を、さらに盛岡市保健所での1歳6カ月児健診からはクライアントフレンドリーサービスを、それぞれ学び、帰国後自ら取り組むべき活動計画を作成しました。

ケニア保健省家庭保健部生殖母性保健サービス課プログラムオフィサーであるクラリス・オクムさんは、現行の健康保険制度が十分に国民に浸透していない状況を打開する案として、妊婦健診時に健康保険基金(National Hospital Insurance Fund)の職員を同席させることで、妊娠中にかかる医療費を保険でカバーし、経済的理由から通院が途絶えてしまう状況を打開するという案を作成しました。
これは、UHCの導入の必要性と、母子保健の継続的ケアの必要性を今回の研修から十分に共感したうえでの発案であり、母国の保健制度の今後の発展において大変意味のある活動計画となりました。

ミャンマー保健スポーツ省サガイン地方域公衆衛生局長補佐であるチッ・トゥンさんは、言語的・地理的に孤立しているナガ(Naga)地区で、施設分娩が少ない(25%)状況を打開する方法を作成しました。原因のひとつである助産師不足を打開する案として、ナガ地区で3年間勤務した助産師には、女性保健訪問員(Lady Health Visitor)への昇格トレーニングを優先的に受けられるシステムの導入等を計画に盛り込みました。
これは、岩手県地方視察の際に、卒後地域医療に従事すると決めた医学生の奨学金返還が免除されるシステムを学んだことがヒントとなり、東京でのセッションだけでなく、地方視察からも得た多くの学びを活かし、計画を立てることにつなげたのです。

ガーナ保健サービス家族保健局安全な母性プログラムのプログラムオフィサーであるヴィヴィアン・ダリンクワさんは、今回の研修でクライアントフレンドリーな日本の医療状況を視察し、ガーナの施設利用出産率が56%と伸び悩んでいる状況は、妊婦健診の質の低さにあるのではないかということに気づかされたそうです。妊婦健診の時点で医療施設・医療従事者の態度に満足してもらえれば、施設分娩をもっと多くの妊婦が利用するようになるのではないかという発想から、5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)の徹底や妊婦健診の内容面・サービス面での質を向上させていきたいと考えています。

研修員の皆さんの感想・今後計画している活動の内容を紹介します。
  • ブアラ・ポンマチャックさん(ラオス)
    チャンパサック県保健局に勤め、公衆衛生・医療に関する地域の問題を保健省に対して提起していく活動や、海外からの視察団に対して地域の公衆衛生・医療を知ってもらう活動を行っています。
    今回の研修で最も印象に残ったのは、岩手県盛岡市で見学した1歳6カ月児健診です。継続的な乳幼児のフォローアップ体制が確立されていることに感動し、このような健診制度をラオスでも取り入れていけるように政策提言を行っていきたいと思います。
    今回の研修に関連することで、以前から問題意識を持っていたのはラオスの妊産婦死亡率と乳幼児死亡率がいずれも高いということですが、これを改善していくにあたって地域レベルでリーダーシップを発揮し、政策を実行してくことが重要と考えるようになりました。これは、岩手県の現地研修の時に、旧沢内村で深沢晟雄村長が妊産婦と乳児の死亡率を劇的に改善させた取り組みからヒントを得たもので、帰国後は大いに参考にしていきたいと思います。
    今回の研修に参加する以前は、母子保健が公衆衛生事業の中でこんなに重要な問題とは思っていませんでした。帰国後は、母子保健の重要性の周知を図り、予算の増額を提言してく予定です。
  • クワシ・イェボア・アウズィさん(ガーナ)
    アシャンティ州保健局で副局長として州の公衆衛生について監督していく立場で活動をしています。
    今回の研修で最も印象に残ったのは、岩手県盛岡市で行われていた1歳6カ月児健診の見学です。精神発達遅滞・体重増加不良など対策すべき問題を区分しそれぞれに対策を行っていること、生まれたら後は母親任せというわけではなく、行政レベルで継続的な乳幼児のフォローアップ体制が確立されていることに感動しました。
    今回の研修に関連することで、国内の問題として以前からあったのは妊産婦死亡率・新生児死亡率の高さですが、これはガーナでもすでに取り入れている母子健康手帳の内容を改善し、利用を強化していくことで減少させていくことができるのではと考えるようになりました。
  • ジョセフ・ニイ・オトエ・ドゥドゥーさん(ガーナ)
    保健省の保健政策監督・評価局で分析官として国民の保健に関するデータの分析・政策の立案・実行を行っています。
    今回の研修は全体的にとてもわかりやすかったです。特に、最初の杉下智彦先生(東京女子医科大学)のUHC概説の講義、モニール・イスラーム先生(リバプール大学)とのディスカッションを通じたセッションで、UHCについて非常に理解が深まりました。母子保健政策など日本で学んだ母子継続ケアとUHCの実践を参考に、実際にガーナで実行に移していくには、政府内のリーダーの理解が欠かせません。今回、偶然日本でガーナの該当部署のリーダーに会うこともでき、彼女は非常に興味を示しており、実施に弾みがつきそうです。また、ファシリテーターがとてもよく効果的に準備、進行をしてくれてよかったです。
    個人的には、今後は母子保健政策についての博士課程での研究に取り組みながら仕事をするので、時間を効率的に使いながら頑張っていきたいと思います。
  • ヴィヴィアン・アコスワ・オフェリ・ダンクワさん(ガーナ)
    家族保健局でプログラムオフィサーとして母子保健に関するデータの分析・政策の立案・実施を行っています。
    今回の研修は他国の母子保健に関する事情を知るよい機会となり、目的意識を常にもって参加することもできたので、よい形で帰国後の活動に還元していけると思います。
    問題意識を以前から持っていたのはガーナの高い妊産婦死亡率です。出産に関する費用が無償化されたことにより、提供できる医療の質が妊産婦さんたちの要求に追いつかなくなってきている状況を感じています。以前は経済的な問題で妊婦健診などに来院しなかった層が健診を受けるようになり、医療従事者の負担は増大しています。プレッシャーから辞職する者もおり、質の担保がより困難になっていくという状況が生まれています。今回の研修で学んだ5S、患者に対して親しみの持てる態度などを実行することで質の高い医療サービスの提供を実現していきたいと考えています。また、母子手帳はガーナでも導入されていますが、子どもに関する手帳・母親に関する手帳など複数に分散してしまっている状況なので、日本の母子健康手帳のようにそれらを一冊に統一していければ、継続的な母子健康ケアがより行いやすくなりそうです。
  • チッ・トゥンさん(ミャンマー)
    サガイン地方域公衆衛生局で局長補佐として、母子健康・栄養保健の政策作りなどを行っています。今回の研修では5Sに関する講義・見学が非常にためになりました。整理整頓や身の回りを清潔に保つなどは日常業務だけでなく、生活の基本となるものです。
    健康に対する責任感を政府レベルでなく市民一人ひとりがしっかり持っているということも、岩手県研修でも感じることができました。国民皆保険制度や医療の継続的ケアが行われているという状況が健康に対する個人の意識の高さにつながっているように感じました。
  • ラム・ピルンさん(カンボジア)
    国立母子保健センターで性と生殖に関するプログラムの部長として、母子保健に関するガイドラインの作成や、地域の助産師・医師に対して技術習得(帝王切開技術など)の研修を行っています。
    今回の研修では日本で行われている母子健康医療の継続的支援が旧沢内村のような小さな村でも行われていることに感動を覚えました。医療従事者のモチベーションを高めることで質のよい医療の提供が可能となり、その質に満足した利用者がまた医療施設を訪れるこという一連のよい流れを実際に見学することができました。
    カンボジアの母子保健分野の問題点としては妊産婦死亡率の高さがありますが、この問題を解決するには医療施設へのアクセスの悪さから足が遠のいている住民に対して妊婦健診や産後健診を受ける利点をもっと知ってもらう活動が必要であると感じました。
  • ワン・ニットさん(カンボジア)
    国立母子保健センターで性と生殖に関するプログラムの職員として州の母子保健担当職員の監督を行っています
    今回の研修では日本の母子健康保健システムを学ぶことができ、岩手の現地視察では深沢村長の地域に根ざした母子保健の様子を知ることができました。研修を終えたいま、自分の仕事はやりがいのあるものであると改めて感じています。
    カンボジアの母子保健に関する大きな問題として、家族計画を実行していない層が多いということがあります。今後、家族計画に関するカウンセリングの質を向上させることで、市民がより気軽に相談でき、リピートしたいと思えるカウンセリングシステムを作っていきたいと思います。家族計画の概念がもっと浸透していけば、10代の若者の望まない妊娠・中絶数の減少にもつながっていくと思います。
  • クラリス・アオコ・オクムさん(ケニア)
    保健省の生殖母性保健サービス課でプログラムオフィサー助産師・看護師の研修や、地域保健の推進を国レベルで行っています。今回の研修はとてもよく企画編成されていて、相互性の講義で学べることが多くありました。
    岩手の現地研修では実際に人の行き来を確保することも難しいような積雪の状況を目の当たりにし、政府の助けを待つばかりではなく、地域ごとにリーダーシップを持てば確実に状況を変えることができるのだと勇気づけられました。母子手帳はケニア国内で5年ほど前から制度としては存在していますが、実際に機能しているとはなかなか言えない状況です。
    今回の研修で母子手帳は継続的ケアを行うための重要な鍵であると改めて感じました。乳幼児死亡率を減少させるために欠かせない政策として、国内での改善普及に務めていきたいです。

報告・東京女子医科大学5年生 嘉和知成美(ジョイセフインターン)

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