【2019年度人口問題協議会 第1回明石研究会】(後編) 国連人口部による世界人口推計2019年版について

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2019.8.13

林 玲子
推計の概要
 国連人口部が公表した今回の世界人口推計は、世界各国/地域の1690のセンサス結果、人口登録集計、そのような統計のない国では2700の標本調査を元に、1950年から2100年までの世界235カ国/地域の人口を推計したものである。
https://population.un.org/wpp/

 1948年に最初の推計が公表された後、2~3年に1回出され、2019年6月17日に公表された2019年版で26回を数える。今年は国連人口部から、各国でも発表してほしいという要望があり、日本では国連広報センターが間にたって日本記者クラブ主催の会見として私が説明をした。

 2017年版と比べて出生率の高い国で出生率が下方修正された。その結果、世界総人口の中位推計では、2050年が3679万人、2100年には3億1000万人減ると下方修正された。

 世界人口の増加は続くものの、現時点でそのペースは1950年以降で最も緩やかになった。2060年ころに100億人になり、その後の増加は緩やかである。

 今後数十年間の人口増加の大部分はサブサハラ・アフリカで生じることとなり、2100年に40億人を超えると予測されており、サブサハラ・アフリカとそれ以外の地域における人口問題は異なったものに2極化していく。今回の推計では地域区分に「SDGs地域」が導入され、北アフリカを除いた、アフリカの中でサブサハラ地域をSDGsの大きなターゲットとして取り組む国連の意気込みが感じられる。

今後数十年間の人口の動向(1950年~2100年)

地域別世界の人口(1950年~2100年)

 世界十大人口国をみると、日本は1990年に7位であったが2019年に十大国からはずれ11位となった。今後はインドが中国を抜いて1位になると予想される。ナイジェリアやパキスタンの人口増加の勢いは止まらない。一方、人口減少が始まる地域があり、2050年までに人口減少を経験する国は増加する。

 人口増加率は1960~70年代の2%から今では1%くらいに下がり、「人口爆発」とは言えない時代になった。そして、人口ボーナスをいかに活かすか、高齢化どうするかということに関心が注がれている。

 生産年齢人口(25歳~64歳)の割合が増加している地域では、「人口ボーナス」として知られる経済成長の機会が訪れている(下図参照)。

生産年齢人口の割合

低出生率と高齢化
 65歳以上割合の動向を見ると、日本は2000年ころから世界でも突出した。ただし世界全域で65歳以上割合は増加している。

65歳以上割合の動向

 今後1人の若者が何人の高齢者を支えなければならないかを表す、潜在扶養指数(65歳以上人口に対する25~64歳人口の比率)は日本が最低である(2019年)。

潜在扶養指数(2019年)

 年齢の区切り方も重要である。生産年齢人口の年齢を25歳~65歳とすると、従属人口指数は2025年で底をつくが、15歳~65歳とすると2015年で底をつく。

従属人口指数:
生産年齢人口(25歳~65歳とした場合)

従属人口指数:
生産年齢人口(15歳~65歳とした場合)

 次に合計出生率(女性1人あたりの出生数)については、どの地域でも低下していき、これからは高い地域も置換水準の2.1まで下がるとされている。東アジアについては、国連は日本と韓国は1.67くらいで収束するとしているが、日本については国立社会保障・人口問題研究所による仮定値では1.44、韓国について韓国統計庁は1.38に収束するとしており、国連は高めに設定している。以前タイ政府関係者が、国連の推計では困ると苦言を呈していたことがあったが、今後の出生率低下は先が見えない状況にある。

平均寿命
 平均寿命についてみると長寿化が進展し地域間の平均寿命の差は縮小しつつあるが、格差は依然として大きい。

 しかしながらこれまでは寿命は延びるのが当たり前であったが、米国、ベネズエラなど20の国では寿命が縮むか、延びが停滞している。米国では麻薬中毒による死亡の増加により寿命が縮んでいる。若者の麻薬中毒もあるが、高齢者の麻薬系の痛み止め服用過多による中毒での死亡も増加している。英国でも今年公表された統計によると、2014年~2017年の3年間の平均では寿命が停滞し、地域によっては下がっているという結果になった。

 国連は寿命の延びについて楽観的に考えているが、国内の格差が広がり寿命が停滞するなど先行きは不透明である。最悪これから寿命が延びないと仮定して死亡率が2015年~2020年の水準で一定とした場合、世界人口は2060年頃に減り始め、100億人には達しない。極端な例ではあるが、こういうことも念頭に置く必要がある。

 人口を決めるのは、出生と死亡と移動であるが、移動については未来を予測することは非常に難しい。国連推計の国際移動の仮定値は現状を延長したものである。

 オンラインでSDGsに関する意識調査が行われている。
https://myworld2030.org/

 この結果を見ると、SDG8のディーセントワーク(人間らしい雇用)が、日本では重要度第3位、世界では第2位となっている。人口問題の新たな切り口の課題として、中位所得国の人口ボーナスとなる若者にディーセントワークと言える仕事を与えられるかどうか、が関心事になるとも言える。

参加者の発言から

阿藤 誠・国立社会保障・人口問題研究所名誉所長
 林部長から、人口に関わる内外の動きを丁寧にご紹介いただいた。ありがとうございました。それでは、まずナイロビサミットについて、国連人口基金の佐藤さんに補足をお願いしたい。

佐藤摩利子・国連人口基金東京事務所長
 2019年は国際人口開発会議(ICPD)から25年の年で、11月12日~14日にナイロビで開催するサミットについて補足したい。「25周年記念ナイロビサミット」は国連の会議の枠組みではなく、開催国ケニアと資金をいただいたデンマーク政府、国連人口基金(UNFPA)の三者共催で行うマルチセクターの会議である。争点にフォーカスするのではなくwomen deliver などのムーブメントを前面に押し出し“Unfinished business”を中心にどのようにfinishするかが争点となり、それぞれがコミットメントを共有する場ともなる。

 カイロの約束事である行動計画が完全に実行されているとは言えず、行動計画が実施されることを確認することを目的としている。UNFPAは、妊産婦死亡をゼロ、家族計画へのアクセスがない状況をゼロ、有害な慣習(ジェンダーに基づく暴力や女性性器切除、児童婚など)をゼロにという3つのZERO目標をこのサミットを通じて加速させたい。プログラムはこれから詰めていく。TICAD7でもナイロビサミットのサイドイベントを通じでナイロビサミットへの機運を高めていく。

明石 康・人口問題協議会会長/ジョイセフ会長
 林さんから大変多くの話を聴き、内容を消化するのに時間がかかりそうだが、人口、経済成長、持続可能な開発などの問題を、データに基づいて一緒に考えれば解決策が得られるのではないかと思う。強固な楽観主義を客観的な観点から裏付ける可能性が込められている気がする。」

阿藤 誠
 人口データを見れば、問題はありながら世界の人口爆発は今世紀末にかけて収束に向かっていると言えそう。1994年のカイロ会議の時、行動計画にリプロダクティブ・ヘルス・ライツの文言が登場し大きな論争になったが、合意を見た。その後米政権が変わるたびにこのコンセンサスが揺らぐ状況に陥ってきた。さらに、LGBTなど人口問題に直接には関わるとは言えないテーマに議論が拡散する傾向もあり、問題が複雑化している。

明石 康
 日本がリーダーシップをとっている国際保健分野では、今後も期待できるのではないか。

石井澄江・ジョイセフ理事長
 日本政府はユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を主導的に推進している。残念ながら、財政の問題やフレームワーク等の問題が大きく、コミュニティや個人のところまでの裨益になかなか至っていない現実がある。ビジョンを具体化することが重要である。1978年に提唱されたプライマリー・ヘルス・ケア(PHC)を再度見直して、それを核にしながらUHCの達成を目指していく方向にある。そこでSDGsの時代では、国内の資金調達をどう達成するかに焦点をあてながら議論を進めている。

 SDGsが登場した時からすでにODAの枠内では収まらなくなっている。一方で企業がCSR(社会的責任)をもっと踏み込んだ形で関わることが求められるようになった。

メディアから
 企業やメディアでは今SDGsがブームのようになっているが、人口分野が追いついていないように感じられる。SDGsをもっと具体的に人口問題に紐付けしていく必要があるという印象がある。

阿藤 誠
 個人的には、1994年まではそのような議論が割とストレートにできたのだが、ICPD以降はマクロの人口問題を経済発展や環境問題に直接結び付けて政策的議論をするのは難しいと思う。隔靴掻痒の感はあるが、メディアの協力も得て、SDGsに関心をもつ人に、家族計画を含むRHの普及ならびにRRの尊重、ジェンダーの平等の達成が、一方でアフリカなどの人口増加の抑制につながり、他方で先進地域の少子化問題の解決に資することを伝えていく必要がある。
 いろいろのご意見をありがとうございました。

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