ウェビナー開催報告「COVID-19の途上国におけるSRHRへの影響について」
2020.4.27
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ジョイセフは2020年4月21日、国際家族計画連盟(IPPF)の職員を招き、オンラインセミナー「COVID-19が途上国の セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスの現場に及ぼす影響」を開催しました。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大は、IPPFに加盟する各国家族計画協会の活動にも大きな影を落としています。当日はロンドンのIPPF本部でチーフ資金調達アドバイザーを務める谷口百合さんと、IPPF東・東南アジア・大洋州地域事務局(ESEAOR)の事務局長として日本を含む25カ国の活動を統括する福田友子さんが、グローバルな視点からCOVID-19のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツへの影響を解説しました。
当日のセミナーには200人を超える申し込みがあり、Youtubeでの生放送にも多くの視聴者が集まりました。セミナーの様子は、ジョイセフYoutubeチャンネル(https://www.youtube.com/watch?v=JQQD7x1SO7g)でご覧いただけます。
SRHサービスの提供が10%減れば、年間3万人近くの女性が亡くなる
IPPFは1952年にインドで設立され、現在は149カ国のNGOが参加し、世界で年間2億5000万件のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス(SRH)サービスを提供している、SRHR分野で世界最大の国際NGOです。日本では、日本家族計画協会(JFPA)が加盟協会となり、ジョイセフはIPPF東京連絡事務所として、ともにSRHRの推進に取り組んでいます。
谷口さんは、COVID-19感染症対策として多くの国が外出や移動を制限・禁止しているために、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス(SRH)サービスへのニーズが高まっていると指摘。SRHサービスを利用できることは、女性や少女、脆弱な人々を守るために不可欠だが、緊急事態の前に置き去りにされがちだと強調しました。
IPPFの加盟協会に対して3月末に実施した調査によると、66%の協会がサービスの提供拠点を閉鎖せざるを得ない状況に置かれています。また、政府によるCOVID-19対策のために、31%の協会がスタッフを、11%の協会が活動拠点を提供しているなど、SRHに向けられていたリソースがCOVID-19対策に回されていることが明らかになりました。
クリニックでのSRHサービスを継続しているところでも、多くがサービスの提供時間や内容を縮小・中止しており、36%の組織でサービス提供に必要な物資が、およそ30%の組織で避妊具や避妊薬が不足しているなど、SRHサービスの維持自体が日に日に困難になっていることが判明しました。
谷口さんは、米グットマッハー研究所による、SRHRサービス提供の減少についての試算を紹介。それによると、避妊具や避妊薬の利用が10%減れば1500万件の予期せぬ妊娠が、また妊産婦・新生児ケアの提供が1割減れば2万8000件の妊産婦死亡が、そして安全な人工妊娠中絶サービスが1割減れば危険な人工中絶300万件と、それに伴う1000件の死亡が、それぞれ1年あたりで増加すると見られています。
こうした状況を受けて、IPPFではタスクフォースを結成し、加盟協会の支援と地域・グローバルレベルでの政策提言をすることに加え、長期的な視野で物資や薬・機材などのストックと流通を確保する体制づくりに取り組んでいます。谷口さんは、IPPFではこれまでになく団結の機運が高まっており、一丸となって今後の活動につなげていこうとしていると述べました。
オンラインや「置き配」、SNSなど、新たな手段を活用
福田友子さんは、北はモンゴルから南はオーストラリアまでの25カ国の家族計画協会を統括するIPPF ESEAOR事務局長として、同地域内でのCOVID-19の影響について報告しました。ESEAOR事務局の管轄下の家族計画協会には計7881のサービス拠点があり、昨年は2020万件のSRHサービスを提供しましたが、3月31日現在で全体の30%の拠点で活動が停止しており、25のうち19の協会ではサービスに制約が生まれています。12の加盟協会では物資が不足しており、研修などの機会も減少している一方で、フィリピンではクリニック内にCOVID-19の検査と管理スペースを設置するなど、感染症対策への協力も行っています。
こうした中で、オンライン診療やSNSなどのネットを使ったコミュニケーション、避妊具や避妊薬、妊娠検査薬などを置き配で提供するほか、各国の協会は新しい手法を取り入れて、少しでも多くの人にSRHサービスを提要しようと力を尽くしています。各協会が活動を続けていくためには、活動資金や給与保証はもちろんのこと、個人防護具や感染予防策、同居する家族のケアなども必要になっています。
これらを踏まえて福田さんは、COVID-19対策には自宅にとどまる女性、医療従事者など社会を支えている女性、さまざまな立場の女性の視点が欠かせないと指摘。給付金のような経済政策の効果がきちんと女性に届くことや、適切かつ革新的な対応や、SRHR、性別に基づく暴力などに関する情報の提供が大切だと語りました。
その後の質疑応答では、先進国から始まったCOVID-19感染拡大で起こりうる今後の課題として、政府開発援助(ODA)が感染症対策に優先的に充てられることによる資金不足だけでなく、保守派がこの機会を利用してSRHサービスの優先度を下げ、安全な中絶へのアクセスを妨害しようと試みる動きへの懸念や、男性も性感染症の検査ができない、コンドームの入手が難しくなるなどの影響を受けているという報告もありました。
ジョイセフは、今後も国内・海外のSRHRの現状などについて、積極的な情報の発信に取り組むとともに、国内外のパートナーとともに最新事情を知るためのセミナーの開催を予定しています。
【COVID-19関連:外務省へ声明をジョイセフも提出】
ジョイセフは本セミナー主催後、2020年4月23日に開催されたGII/IDI懇談会において、『COVID-19 を契機とした感染症対策における途上国のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスサービス提供に対する継続的支援に向けた要請』を提出しました。
なお、GII/IDI懇談会参加団体一同からの共同声明はこちらからアクセスできます。(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ・デーWEBキャンペーンサイトより)