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中絶の“今”を知るための5つのポイント

2022.1.24

ジョイセフでは2019年から毎年9月28日の「International Safe Abortion Day」(安全な中絶・流産のための国際デー)に向け、アクティビストを対象にリプロダクティブ・ライツのひとつ「安全な中絶」をテーマに勉強会を行ってきました。2021年は「選べない今から、選べる未来へ」を開催。

安全な中絶・流産とはどのようなものなのか。産婦人科医で「Safe Abortion Japan Project」代表を務める遠見才希子(えんみ・さきこ)先生にお話いただいた内容を、ポイントにまとめます。

日本で行われている中絶は、年間約14万5000件

“abortion”には「人工妊娠中絶(以下、中絶)」と「流産」ふたつの意味が含まれます。

中絶は、人工的に妊娠を中断すること、流産は胎児心拍が止まるなどして妊娠が終了することです。流産は約15%の妊娠で起こります。けい留流産で排出されずに残っている場合は、自然に排出されるのを待つか、中絶と同様の手術が行われます。

流産手術は保険適用で産婦人科医によって実施されますが、中絶手術は自由診療で、日本で中絶を行うのは、資格を持つ「母体保護法指定医」。そのマニュアルには、中絶は患者の求めに応じて行うものではなく、中絶への適応があると医師が判断した場合のみ行うべきと記されています。中絶するかどうかの決定権が、患者ではなく医師にあるとされているのです。

また現在、日本で中絶できるとされている期間は妊娠22週未満。妊娠12週未満は「初期中絶」、12週以降は「中期中絶」と呼ばれています。初期と中期では、中絶の方法と費用、女性にかかる負担が変わります。

日本で2020年に行われた中絶は、年間14万5000件ほど。単純計算で1日あたり約400件です。さらに、そのうち約30件は10代が受けていることがわかっています。

日本で行われる初期中絶は、手術のみ

日本では、おもに3つの手術法が採られています。

1つ目は、「掻爬(そうは)法」。金属製の器具で、子宮内をかき出します。2つ目は「電動吸引法」。金属製の吸引管を使います。掻爬法と吸引法は静脈麻酔(全身麻酔)が必要です。3つ目の方法は、簡便で子宮に負担が少ないとされている「手動吸引法(MVA)」。柔らかいプラスチック製の吸引管を使い、局所麻酔で行うことも可能と言われています。

実施されている割合は2015年に発表された調査で、掻爬法の単独が約3割。掻爬法と吸引法の併用が約5割、吸引法が約2割でした。

世界では状況が違い、1970年代にはすでに手動吸引法が主流となっていました。1988年からは経口中絶薬(abortion pill)による中絶が始まり、現在約80カ国でミフェプリストンとミソプロストールの2種類の薬を併用した中絶が行われています。

国際的に推奨されているのは、真空吸引法と中絶薬

単独と併用を合わせると、日本では全体の8割で実施されてきた掻爬法。でも、世界では推奨されていません。WHOは、掻爬法は時代遅れの外科的手術であり、合併症の観点から行うべきでないと勧告。2020年には、掻爬法は訓練を受けた人が施術したとしても安全性が低い、と発表しました。代わりに推奨しているのは、真空吸引法と中絶薬です。真空吸引法は、国際的には手動が一般的です。

薬剤では、2種類の薬の併用が推奨されています。1種類目の薬(ミフェプリストン)は、おもに妊娠を維持するホルモンを止める作用があります。ミフェプリストンを服用した2日後に、2種類目の薬(ミソプロストール)を服用します。ミソプロストールは子宮を収縮させる作用があります。服用した数時間後から子宮の中のものが出血と痛みとともに排出されるため、痛み止めも併用します。約1日で排出がおおむね完了すると言われています。2週間ほど出血が続く場合もありますがほとんどの場合、追加の手術は要りません。

※2022年1月現在、経口中絶薬は日本未承認のため、国内で使用することはできません。ミソプロストールは、国内で胃・十二指腸潰瘍の治療薬として認可されていますが、適応外使用しないように注意喚起され、妊婦に使用することは禁忌とされています。

世界の中でも高い日本の中絶費用

WHOは、2012年に出版した書籍『Safe abortion: technical and policy guidance for health systems』で、「中絶は、女性や医療従事者をスティグマ(負の烙印)および差別から保護するために公共サービスまたは公的資金を受けた非営利サービスとして、医療保険システムに組み込まれなければならない」と提言しました。

世界には、中絶の手術が公費でまかなわれている国が約30カ国あります。イギリスやスウェーデンなどでは無料です。

「日本ではなぜいまだに懲罰的な掻爬法を罰金のような高額で行っているのか?」と、ほかの国の人に驚かれたことがあります。日本の中絶費用は非常に高額です。中絶は自由診療で保険適用されず、初期で約10万〜20万、中期は健康保険加入者の場合、約40万円の出産育児一時金の対象になりますが、自己負担は約5万〜60万と医療機関によって異なります。

SRHRを尊重する視点は、全ての土台

中絶に対して「安易な中絶」「命を軽んじている」というイメージを持たれることもありますが、これはスティグマにつながる表現です。中絶という選択をするまでには、人それぞれの過程があります。他人が想像や思い込みで判断することはできません。

どんな人にも自分の体のことを自分で決められる権利があります。それは、妊娠・中絶に関しても変わりません。子どもを産むかどうか、産むならいつ・何人か……こういったことは、自分自身が決めることなのです。

「Sexual and Reproductive Health and Rights(SRHR:性と生殖に関する健康と権利)」は、これらの考え方の基本となる概念です。ここで述べられているのは、“性や子どもを産むことに関わる全てにおいて、身体的にも精神的にも社会的にも良好な状態で、自分の意思が尊重され、自分の体のことを自分で決める”こと。医療のみならず、教育、社会について考えていくうえで、欠かせない視点です。
 


 

プロフィール
遠見 才希子
産婦人科医。1984年生まれ。神奈川県出身。2011年聖マリアンナ医科大学卒業。大学時代より「えんみちゃん」のニックネームで全国1000カ所以上の中学校や高校で性教育の講演活動を行う。著書『ひとりじゃない』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『だいじ だいじ どーこだ?』(大泉書店)発売中。ジョイセフI LADY.アクティビスト。

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