
4月13日から17日、アメリカ・ニューヨークにある国連本部で、「人口開発委員会(CPD: Commission on Population and Development)」という会議に参加しました!

CPDは、1994年にカイロで開かれた「国連人口開発会議(ICPD)」で決められた行動計画が、世界の国々でどれだけ実行されているかを見守り、必要な国際ルールや政策を話し合うための国連の委員会です。毎年4月に1週間、ニューヨークの国連本部で開催され、その年のテーマにそって各国が意見を出し合い、最終的に「決議」と呼ばれる、みんなで合意した方針をまとめることを目指しています。
2026年のCPDはカイロ行動計画・SDGsを達成する上で、そして今後の国連の在り方を決める上で、きわめて重要な会議でした

今年のCPDのテーマは「SDGsと人口・技術・研究の関係 (Population, Technology and Research in the Context of Sustainable Development)」でした。
SDGs(持続可能な開発目標)の達成期限は2030年。あと数年しかありません。そこで今回は、世界中の国々が力を合わせて「SDGsを絶対に達成しよう!」という決議(みんなで同意する約束文書)を全会一致でまとめることが期待されていました。
国連創設80年、今なぜ「改革」が必要なの?
国連は1945年、第二次世界大戦の悲惨な経験を踏まえて「もう戦争を起こさないように、人権を守り、世界を安定させよう」という目的で作られました。
でも今、世界は大きく変わっています。
- 自国第一主義・強権的な政治体制の台頭
- 長引く紛争・戦争・ジェノサイド(民族大量虐殺)
- 一部の国が国連への資金提供を意図的に止めていることによる財政難
こうした問題から、国連がうまく機能しなくなってきているとして、2025年の終わりにグテーレス国連事務総長が「UN80イニシアティブ」(国連改革の提案)を打ち出しました。
その中で議論されているのが、UN Women(ジェンダー平等を担う機関)とUNFPA(性と生殖に関する健康・権利=SRHRを担う機関)の合併案です。
こうした背景から、今回のCPDでジェンダー平等とSRHRをしっかり守る内容の合意文書にまとめることは、とても重要な意味を持っていました。
しかし残念ながら、今年は合意文書がまとまりませんでした。
会議での決議文書づくりは、5カ国で形成される議長団がまとめ役となり、国連加盟国間どうしが交渉します。
NGO(非政府組織)の役割は、各国の政府に対してSRHRに関する正確な情報や市民の声を伝え、支援してもらえるよう働きかけること。長年SRHRを推進してきた国では、NGOの専門家が政府代表の一員として国連会議に参加することもあります。
そのため今回も、月曜日からの本会議に先立って週末からNGOが集まり、戦略会議を行いました。

会合で出会った、ジョイセフのザンビアでのパートナーPPAZのBoydさんと

戦略会合後のひと時。ニュージーランドのIPPF加盟団体のジャッキーさん(左奥)は、ニュージーランド政府代表として参加。ジョイセフの石井前理事長との思い出話を聞かせてくれました。
週が明けてからも、毎朝8時からNGOの戦略会議をスタート。10時から始まる国連内部での会議に向けて、情報共有と対策の検討を続けました。
「巻き戻し」を狙う動きが強まっている
ここ数年、ジェンダー平等やSRHRの流れに反対する「プッシュバック(揺り戻し)」が世界的に強まっています。
今回のCPDでも、その動きに加担する一部の国々のグループが、長年の交渉で積み上げてきた合意内容を崩そうと働きかけました。具体的には次のようなことが起きていました。
- カイロ行動計画(1994年に採択された、SRHRの国際的な指針)※やSDGsの根幹となる内容を骨抜きにしようとする
- 「自分の体のことは自分で決める権利(身体の自己決定権)」を制限しようとする
- 性と生殖に関する医療ケアへのアクセスを狭めようとする
- 「家族」の定義を、かつての「伝統的な核家族」だけを指す狭い意味に戻そうとする
こうした動きの背後には、反ジェンダー・反SRHRの立場を支持するNGOも存在しており、それらの国々に情報提供・ロビー活動を行っています。
国連の会議は、支持する側も反対する側も、NGOが情報戦・説得戦を繰り広げる場でもあるのです。
※カイロ行動計画:
1994年にエジプトのカイロで開かれた国際人口開発会議で採択された文書。SRHRを国際的に認めた画期的な合意とされている。

市民社会による発言を待つ、NGO席。反対勢力と隣り合う席順になることも。
残念ながら、合意文書がまとまらなかった原因は、反SRHR勢力だけにあったわけではありません。
今回の交渉では、普段はジェンダー平等やSRHRに協力的な国々も、主要テーマの一つである「技術の移転」に関する文言の盛り込みに、強く反対しました。
AIの急速な発展により、技術や知識の進化スピードはかつてないほど速くなっています。こうした技術や、それを使いこなすための知識を世界中で共有することは、持続可能な開発を実現するうえで欠かせないことです。とりわけ、歴史的に植民地支配や資本主義の仕組みの中で、低・中所得国の資源を長年搾取してきた「先進国」には、技術や特許を広く共有する責任があるとも考えられます。
しかし今回、普段はSRHRの推進役でもあるEU諸国が、この「技術移転」の点で一歩も譲らなかったことが、合意を阻んだ一因となりました。
国連を中心とした「みんなで話し合って世界を動かす仕組み(多国間主義)」が大きく揺らいでいる今だからこそ、紛争や暴力が絶えない世界においても、すべての人の人権を守るというカイロ宣言・SDGsの目標を諦めるわけにはいきません。
委員会の最終日、各国が声明を発表しました。
日本政府は次のような立場を明らかにしました。
包括的なSRHRをこれまで通り推進する
技術移転についても、お互いの合意のもとで積極的に進める
UN WomenとUNFPAの合併については、メリット・デメリットを慎重に見極めていく
一部の国がジェンダー平等やSRHRへの攻撃を強めるなかで、日本政府が明確に「推進する」と明確に表明したことは、とても重要で、心から歓迎できる姿勢です。
国際保健の分野で長年SRHRを支援してきた日本政府が、今後さらに力を注いでくれることを期待しています。ジョイセフとしても、市民社会の一員として政府と協力しながら、引き続きSRHRの実現に向けて取り組んでいきます。

日本政府の声明を読む、在ニューヨーク国連日本政府代表部 加藤琢磨参事官
- Author

草野洋美
シニア・アドボカシー・オフィサー。日本のSRHRとジェンダー平等の状況を改善するために、国連人権理事会のメカニズムを活用したアドボカシーに取り組んでいる。 G7の公式エンゲージメントグループであるW7の実行委員兼アドバイザー。 また、若者を中心としたアドボカシーグループ「SRHR ユースアライアンス」の事務局を務め、政策提言を通じて日本のSRHRを取り巻く問題の改善と認知向上を目指している。 2019年にジョイセフに入職する以前は、企業のCSR活動の一環として、2011年の東日本大震災の被災者に対する心理社会的支援プロジェクトを5年間統括した。
WHOが排除を宣言した子宮頸がん 世界の高罹患率10カ国と日本のデータ
性の健康と権利を、草の根から。ジョイセフと全国の地方との「新しい連携」
「国際家族計画会議」ってなんですか?