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COVID-19が女性と少女に与えた影響 〜SRHRとジェンダー平等の危機

2021.8.13

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に拡大し、世界保健機関(WHO)がパンデミック宣言を出してから1年数カ月。

世界中に猛威を振るうCOVID-19が、女性と少女の健康と命に関わる家族計画サービス、産前産後ケア、出産、安全な人工妊娠中絶などに関するセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR: Sexual Reproductive Health and Rights -性と生殖に関する健康と権利)に与える影響について、当初から国連・国際機関、研究機関が警鐘を鳴らしてきました。

COVID-19対策に多額の資金が投入され、人的資源が集中することで、通常の保健プログラム、特にSRHRやジェンダー平等に関わるプログラムの優先順位が下がった結果、ゴール3(すべての人に健康と福祉を)とゴール5(ジェンダー平等の実現)を中心とする持続可能な開発目標(SDGs)の達成がさらに遅れることが懸念されています。

最近になり、パンデミック初期には実施が困難だった開発途上国での調査が行われ、長期化しているコロナ禍が女性と少女に与えている深刻な影響が明らかになってきました。

陰のパンデミック

感染拡大を防ぐために世界各地で行われたロックダウンと外出禁止・自粛などの対策によって、「陰のパンデミック」と呼ばれるドメスティック・バイオレンス(DV) やジェンダー不平等が、193の国連加盟国全体で20%増えたと推計されています。

グローバル開発センター (Center for Global Development)は、昨年の調査100件から、後半に実施された低・中所得国20数カ国 を対象とした調査の報告を抽出・分析した結果、各国で暴力が増加したことを示す明らかなエビデンスがあると発表しました。

コロナ禍で世帯収入が減少し、その結果としての食糧不足が、DV、ジェンダーに基づく暴力や性 暴力が増えた主な理由であり、ロックダウンの規制がより厳しいほど、暴力がさらに増加する傾向が報告されています。

妊娠、出産、避妊サービスへの影響

コロナ禍によって、世界の国々の9割が、保健医療サービスの混乱を経験しました。妊娠、出産については、17カ国で行われた40件の調査では、低・中所得国で死産と妊産婦死亡が約3割増えたことが明らかになっています。

ヘルスケア・システムが脆弱で、パンデミックに対応することができなかったこと、ロックダウンによって公共交通機関が使えなくなったこと、感染することを恐れて保健施設に行かず、必要なサービスを受けなかったこと、支出が増えることへの懸念に加えて、COVID-19対応に動員されて妊産婦ケアをするスタッフが不足したことなどが背景にあります。

ネパールでは9カ所の病院の調査で、2020年前半に施設分娩が50%以上減少し、死産が50%増加、新生児死亡が倍増したことがわかっています。

パンデミック以前から出生数の減少傾向がみられた先進国では、2020年には特に出生数が減少し、イタリア、スペインで約20 %、フランスで13.5%の減少と報道されました。米国では、34%の女性が妊娠を遅らせたい、あるいは子どもは少なく産みたいと回答した調査結果も出ています。

少子化が進む日本では、2020年の出生数の減少率は、例年と比べて特に大きくはありませんが、妊娠届け出数はかなり少なく、2021年の出生数は大きく減少すると予想されます。妊娠を遅らせたいという希望は、開発途上国でも同様に高くなっていますが、 避妊サービスの提供が困難になっていることが障壁となっています。

国連人口基金(UNFPA)の2021年3月に発表されたテクニカル・ノートでは避妊したくてもサービスを受けられない女性が、世界で約1200万人増加し、その結果、意図しない妊娠は140万件増えると推計されています。

コロナ禍が少女の未来を閉ざす

学校閉鎖で子どもが学校に通えなくなるのは男女同じですが、コロナ禍によって家庭の経済状況が悪化したことで、女児が学校に戻れず教育の機会を奪われるリスクが大きくなっています。

ユニセフは、家庭の経済的負担を軽くするために女児を結婚させる児童婚のリスクが25%上昇し、児童婚が今後10年間に1000万件増加するという予測を発表しました。

さらに、UNFPAの「世界人口白書2021」によると、女性と少女にとって有害な慣習である女性性器切除 (FGM)が増えるという懸念が現実のものとなっています。児童婚のリスクのみならず、エチオピア、ケニア、ナイジェリア、スーダンで結婚準備のためとしてFGM が行われ、ソマリアではインタビューされた住民の31 %、ケニアの難民キャンプでは児童保護ワーカーの75%が、FGMが増えたと回答しています。

パンデミックによって、児童婚をなくしFGMを撲滅するためのプログラムを中断や中止に追い込まれ、長年にわたって積み重ねた成果が失われようとしています。

後退を阻止し、前進するために

コロナ禍で後退した状況を回復し、ビルド・バック・ ベター(build back better)のために、各国政府、国連・国際機関、市民社会、民間企業等すべてのアクターが、行動する時が来ています。

例えば、①SDGsに対する国際的なコミットメントとパートナーシップを再確認、再構築し、SRHRの推進とジェンダー平等の実現を加速させ、児童婚やFGM撲滅等のプログラムを立て直すこと、②パンデミックのような緊急事態、災害時に機能する保健システム構築のために、革新的技術の導入を進めること、③特にオンライン診療やセルフケアなどSRHサービスの選択肢拡大に不可欠なインターネット環境などのインフラ整備、 ④コミュニティで活動するNGOの役割や地域ネットワークの強化等が早急に求められています。

そして、市民社会は、誰一人取り残さない世界が実現する日まで、政府や国際社会に働きかけることが必要です。

Author

勝部 まゆみ
UNDPのJPOとして赴任したガンビア共和国で日本の国際協力NGOジョイセフの存在を知り、任期終了後に入職。日本赤十字でエチオピア北部のウォロ州に赴任するために一旦ジョイセフを退職、3年後に帰国・復職。ジョイセフでは、ベトナム、ニカラグア、 ガーナ、タンザニアなどでリプロダクティブ・ヘルスプロジェクトに携わってきた。2015年から事務局長、2017年6月から業務執行理事を兼任し、2023年6月に代表理事・理事長。