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ザンビア・GBVを乗り越え復学した女性と、彼女を支えた母子保健ボランティア

2024.4.16

早婚などで少女の健康と権利が守られず、さらにジェンダーに基づく暴力、いわゆるGBV(Gender-Based Violence)の被害者の大半は女性で、その多くが夫や恋人からの暴力です*

ジョイセフは、2018年から2023年の5年間、ザンビアの複数の地区で、「アフリカの妊産婦と女性の命を守るための持続可能なコミュニティ主体の保健推進プログラム」を実施してきました。

このプロジェクトによって、現地で母子保健ボランティア(ザンビアでの呼称は「SMAG」)・若者ピア・エデュケーター(PE)とともに形成されてきたコミュニティが、ひとりの女性の社会復帰の力強い助けとなりました。

早すぎる妊娠と結婚で学校を離れ、GBVにさらされる女性たち

アフリカの南部に位置するザンビア共和国で問題となっているのが、18歳未満での児童婚、20歳以前での早婚です。サンビアの法律は、婚姻できる年齢を21歳以降と定めていますが、文化的な背景から10代前半でも無理やり結婚させるケースが多く見られます。

児童婚や早婚を強制される女性の多くは、家の貧しさから少女期に学校へ行くことができません。10代半ばになってようやく小学校へ通えるようになっても、性と生殖に関する知識がないままに妊娠し、その相手と結婚させられ、学びの機会を失ってしまうことも。なかには、GBVにさらされる方もいます。

GBVの件数は、新型コロナウイルス感染症で、出産・産前産後などの保健サービスへのアクセスが難しくなった影響から増加傾向にあります。2023年3月にジョイセフが実施したアンケートでは、回答者のうち86.9%が、過去1カ月に何らかの暴力を受けたということが分かりました。

2024年1月、ジョイセフはGBVの被害に遭った女性ための「GBVワンストップセンター」を、カピリ・ンポシ郡で開設しました。

2023年8月にはセンターの完成に先立ち、冨永愛アンバサダー、ジョイセフサポーターの冨永章胤(あきつぐ)さん、支援企業のサラヤ株式会社の方々がジョイセフのスタッフとともに、ウガンダとザンビアを訪問しました。女性センターの建つルワンシンバ地区を訪れ、困難な状況にあったサロメ(Salome)さんからお話を伺いました。

サロメさんと冨永愛さん。ふたりともジョイセフのピンキーリングを付けている。

Photo by @mumuko_artist

三児の母、サロメさん「母子保健ボランティア(SMAG)の存在が心強い支えになっている」

今回お話を伺ったサロメさんも、GBVを受けていたひとりです。13歳で妊娠し強制的に相手と結婚させられて、夫から暴力をふるわれ続けていました。現在は、SMAGとつながることができ、学校に通いながら将来のことを考えられる状況にありますが、インタビュー中は、泣きそうになるのをぐっとこらえている様子で、大変な体験をしたことが伺えました。

――――私は今、20代です。8歳、6歳、1歳10カ月と、3人の子どもがいます。貧しい家族に生まれ、家には何もありませんでした。

初めて子どもを産んだのは、14歳。小学7年生、13歳で妊娠しました。当時は結婚のことも妊娠のことも理解せず、まだ家族と暮らしたかった年なのに、妊娠がわかると親に無理やり相手と結婚させられて、とても悲しかった。

その結婚は悪夢でした。暴力を振るわれ、生活費ももらえませんでした。今振り返ると、我慢せずに早く離婚するべきだったと思います。ふたり目を妊娠してすぐに暴力がエスカレートし、私も子どもも命の危険にさらされました。3人目を妊娠した時に、夫はいなくなりました。

私のところにSMAGが訪ねて来たのは、そんな状況のときでした。「もっと自分を大事にできる生き方があるから、クリニックで相談してみては」とアドバイスをもらい、クリニックへ行きました。若者向けのセッションにも参加し、女性の体や妊娠について学びました。

SMAGに出会ったことで、人生が変わりました。家族計画として3年間避妊できるインプラントを使い、学校へまた通っています。10代で妊娠し親との関係が悪かった私ですが、「学校に戻りたいなら」とSMAGが一緒に親を説得しに来てくれて、子どもを預かってもらえるようになったのです。

私は今、中学1年生です。学ぶことで働くためのスキルが身につき、先の生活は良くなるし、子どもたちも養えるようになります。算数が好きなので、将来は会計士になりたいです。

私が若い女の子たちに伝えたいのは、妊娠しても産んだ後にまた学校に戻って勉強を続けられるということです。SMAGのように声が通る大人がそばにいることはとても心強いことです。私もSMAGになって、自分が助けてもらったように誰かを助けたいです。

黄色い壁を背景にならぶ、ジェイコブさん、サロメさん、冨永愛さん

Photo by @mumuko_artist

母子保健ボランティアのジェイコブさん「彼女の人生の変化をともに体験した」

サロメさんに寄り添ったのは、3人のSMAGでした。そのうちのひとりが、ジェイコブ・バンダ(Jacob Banda)さん。

彼が若いころは、地区での出産や子どもの医療をとりまく環境は劣悪だったと言います。一番近いクリニックまで30km以上離れている家が多く、子どもがマラリアなど病気になってもそのまま亡くなることも頻繁にあったそうです。

――――地区の相談役などを担うリーダーを務めていたのがきっかけで、母子保健ボランティアになりました。地区人に頼まれて母子保健プロジェクトの運営委員会の委員長を引き受けることになり、他の母子保健ボランティアやコミュニティ・ヘルス・ワーカーと関わるうちに、自分たちの地区の環境を良くしたいと思うようになったのです。

私がサロメさんに初めて会ったときは、深刻な状況でした。まず、若者のボランティアを紹介して体の成長のことや妊娠のことを話してもらい、彼女自身に体のことや、どんな選択肢を持っているのかを知ってもらいました。

彼女の親を説得しに行くにあたっては、ボランティアの人たちで集まって相談し、最終的には、誰でも苦しまず幸せな人生を送り、未来のために学ぶ権利がある、ということを伝えることになったのです。そのために、まず地域にアプローチすることにしました。

私たちがサロメさんと出会ってから、彼女の人生が変化するのを一緒に体験してきました。ついに学校へ戻れた時には心から嬉しかったです。

かつてこの地域は、医療従事者の常駐するクリニックすらなく、医療チームが訪問しないと治療を受けられない「アウトリーチポスト」でした。でも、今は遠くから妊婦が泊まりに来る、ワンストップサービスを提供する土地になっています。

ボランティアの活動で地域がどんどん良くなるのを実感していますが、それでも、女性への暴力はなくなっていません。性暴力も児童婚・早婚もです。私たち年長者が若者の味方になって、地域の大人たちを変えていかねばなりません。その責任とともに今後も活動を続けていきます。

ランダムに並ぶ、ザンビアの女性たち4名

Photo by @mumuko_artist

インタビュー同日にファッションショーと自作の詩の披露なども行われました。こちらの記事でご紹介します。

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