ひとジョイセフと一緒に、世界を変えていく「ひと」

女性の命を救うためには、 譲れないことは譲れません。

IPPF 資金調達オフィサー。

谷口 百合

2011.2.15

IPPF(国際家族計画連盟)資金調達オフィサー。
名古屋市生まれ。バース在住。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)卒業後、JICA英国事務所勤務を経て、2002年から現職。


2002年よりIPPF(国際家族計画連盟)で資金調達オフィサーとして仕事をしている谷口百合さん。IPPFの魅力やイギリスから見る現在の日本についてお聞きしました。(2011年インタビュー)

IPPFに入られたいきさつとIPPFの魅力は?

IPPFに入る前はJICAのロンドン事務所にいました。95年でカイロ会議が終わったころですね。社会開発分野で教育や保健分野を担当していて、IPPFも担当していました。その頃、日本のODAの拠出額は世界のトップで、IPPFのトップドナーでもありました。IPPFにそれだけ大きな支援をしていたのに、日本ではIPPFのことはあまり知られていなかった。それで、もっと関心を持ってもらいたいと思っていましたし、人の見える草の根レベルでの仕事をしたいとも思っていまして、IPPFに入ることになりました。

IPPFは、性と生殖に関する健康(セクシャル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)が全ての人に保障されるべき権利である、という信念のもとに活動しています。

1952年に設立されましたが、その頃は産めよ殖やせよと出産が推奨されていた時代で、8人の女性たちが怒りをもって立ち上がってできた組織です。その1人には日本の家族計画運動のリーダーで、日本初の女性国会議員でもあった加藤シヅエさんがいました。日本の先輩が築き上げてきたものと繋がれるというのも素晴らしいと思います。

今でもその精神は受け継がれていて、”Be Brave and Angry (怒りをもって起ち上がれ)”はIPPFのスローガンになっています。
現在、IPPFは世界の150カ国以上に加盟協会があり、約170カ国で特に貧しい人や公的サービスが届きにくい人を対象に、家族計画、母子保健、HIV抗体検査やHIVとともに生きる人々のための各種サービス・情報提供等の活動を展開しています。IPPFの加盟協会は、数百万人の現地のボランティアと専門スタッフによる現地の人々のための草の根活動を続けてきました。

つまり、地元の習慣や文化をよく理解し、自然災害や紛争が起きる前からずっと活動しているということです。例えば、イスラム教やキリスト教のリーダーにも、活動への理解と協力への合意をとりつけるために粘り強くはたらきかけ、モスクや教会を拠点として若者を対象とした性教育をしたり、HIV抗体検査を実施するという非常に難しいとされることができるのも、長年その場所で活動して地元の人の信頼を勝ち取ってきたからこそできることです。

また、貧しい人や声なき人々の声をきちんと届けるんだという強い意志を持っていますね。大きな政治的な圧力を受けたり、拠出金を削られてゼロになってでも、言いたいことは言う。女性の命を救うためには、譲らないところは譲らない。絶対ぶれません。根底にあるプリンシパルが違いますね。

IPPFでのお仕事は?

IPPFは、19カ国の政府から支援を受けていますが、そのうちの東アジア地域のドナー国である日本、韓国、中国政府とのドナー・リレーションを担当しています。

いただいたご支援にIPPFとして確実に説明責任を果たし、さらにご支援いただくようにはたらきかけることが最も重要な職務です。また、これらの政府のODAの動きに注視しながら、機会をとらえて、アドボカシー活動を行ったり、これらの政府と協力した活動を行うための連絡・調整窓口としての役割も果たしています。例えば、日本関連ですと、今年はIPPF日本信託基金(JTF)設立10周年ですが、この機会をとらえてJTF10年の歩みを振り返り、日本政府とIPPF間のパートナーシップの成功例を出版やイベントを通じて関係者や一般の方々にお知らせするような活動も担当しています。

また、日系メディアの方々に世界のリプロ・ヘルス分野の新しい動きについてブリーフィングを行ったり、JTFの活動現場を視察していただく機会を企画したりすることもしています。

リプロダクティブ・ヘルスに対して、魅力的な取り組みを行っている先進国は?

まずは、スウェ―デンではないでしょうか。女性の地位が高く、女性の健康が何たるか、社会の中で女性の役割の重要さが理解されていて、そこにお金をかけていかなければならないということがわかっているのだと思います。あとは、オランダでしょうか。時間はかかったけれど、仲間を増やして、力を合わせて、動かしていくことを実現した国です。

イギリスも、市民社会の役割がはっきりしているという点では、魅力的な取り組みを行っていると言えますね。

イギリスから日本のODAやNGOをどう見ているか?

最近、日本政府は市民社会を巻き込んでパートナーシップを作ろうとしており、いい方向に動いてきていると思います。市民社会と政府が今大きく変わろうとしているのが目に見えてわかります。日本の国として、大きな変革につなげていく戦略がもっとあればいいと思います。

また、日本は市民社会の地位がまだ確立されていませんね。ヨーロッパで見ていると、政府は政府の役割、NGOはNGOの役割と、両者の違いがとてもクリアです。例えば英国政府は、何事も政府機関だけではできないことをよく知っていて、それを外に向かっても、きちんと発信している。

NGOの役割の重要性を認め、パートナーシップを組むことによって、政府のできない部分の対応を任せるという役割分担によって、全体の底上げを狙っている。かたやNGOも政府の監視役としての自覚がはっきりとあって、ものすごくよく勉強しているし、単に批判をするだけでなくて、建設的な政策提言をしっかりしている。
こうした政府とNGOの関係は、お互いの能力を高めるよい効果を持っていると思います。

ジョイセフへ期待すること

一般の人たちに、立ち止まって、考えてもらって、アクションを起こしてもらえるきっかけ作りをしてもらいたいですね。議員とも話ができて、政府の人とも話ができて、一般の人とも話ができるのが市民社会です。ジョイセフとIPPFと足並みをそろえて、引き続きカタリストとしての役割を果たしていくことを期待しています。

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