人口問題協議会・明石研究会シリーズ 「多様化する世界の人口問題:新たな切り口を求めて」 2 前編

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  • 明石研究会

2011.4.24

2011年3月25日に、2010年11月26日の第1回目の研究会での問題提起を受けて、下記の研究会を開催し、22名の参加を得て、議論を深めました。

■テーマ:「人口変動と経済・政治・社会へのインパクト」
■発表者:福川伸次(財)機械産業記念事業財団会長

以下、抄録です。

1. 人口動態の変化

  1. 世界の人口予測
    一般的には都市人口比が低い地域ほど人口の増加率、合計特殊出生率が高い。
    しかし都市人口比が高くても、米国(2.07)、英国(1.86)、フランス(1.87)のように合計特殊出生率が高い地域もあり、社会的・政策的な状況によって違うことがわかる。都市人口比の非常に高い韓国では合計特殊出生率が低く(1.24)、日本(1.26)と似ている(世界人口白書2010による)。
  2. 日本の人口予測
    日本の人口はご承知の通り将来縮小していくが、2009年に1億2756万8千人、2050年に9515万2千人、2100年は4711万人(日本の将来人口推計:国立社会保障・人口問題研究所)と予測されている。合計特殊出生率は、1990年に1.54、2005年に1.26、2008年は1.37である。
  3. 講師の福川伸次(財)機械産業記念事業財団会長

  4. 世界の高齢化予測
    1. 65歳以上の対総人口比の国際比較をすると、日本は2009年の22.8%が2050年に39.6%、米国や英国は2050年に20%台であり、日本の高齢化の大きさが読み取れる。
    2. 中国では2020年に60歳以上人口が17.2%になる。
  5. 日本の高齢化予測
    日本の高齢化は急速に進展しており、2009年の平均寿命は男性79.29歳、女性85.65歳である。また、高齢者人口(65歳以上)の割合が7%から14%になるのにスウェーデンは82年を要したが、日本は1979年から94年までのわずか25年間だった。中国、タイ、シンガポールも日本並みに速く高齢化が進んでいる。
    今やこれらの国は世界の経済成長の拠点と言われているが、果たしてこれが持続するかを示唆している。
    「生産年齢人口で何人の高齢者を支えるのか」については、2000年には3.6人で1人、2025年は1.82人、2050は1.2人で1人となり、相当の負担になるのは明白である。

2. 人口動態変化と経済成長

  1. 世界の人口動態の比較
    1. 人口増加は都市化を招き、成長率を高めると同時に、高い所得水準はエネルギー消費を高める。一番高い米国の1人当たり購買力平価によるGNIは46970ドル、1人当たりエネルギー消費量は7766(石油換算 Kg)であり、世界はそれぞれ10357ドル、1820、日本は35220ドル、4019である(世界人口白書2010による)。
    2. 都市と農村の所得格差
      都市と農村の所得格差は、地方分散政策を採る国が多いが、それにもかかわらずその格差が拡大傾向にある。
      日本は、高度成長期に国土の均衡ある発展を目指し、工業の地方分散と農業の保護政策を展開したが、都市と農村の所得は拡大の傾向、兼業農家が増大した。
      所得格差の増大は中国でも同様で、1978年の都市の所得は農村の2.5倍、2009年には3.3倍に拡がっている。15歳から64歳の人口が1980年から2010年までの30年間に年率1.8%で増加し、数では3分の2伸びたことになる。この期間には人口のボーナスがあったが、2030年ごろから人口は減少するとされており、生産年齢人口は2016年をピークに減っていくため、高度成長はかなり難しい局面を迎えることになる。豊かになる前に低成長に移る可能性もあると考えられる。
    3. 一般的に高所得層の所得の伸びが低所得層の伸びを上回っている。これがどういう傾向を示すかも議論になるところである。
  2. 資源エネルギー食料の供給限界
    1. 現在の可採年数は、石油50.4年、天然ガス78.1年、石炭139年、ウラン132年、レアアースなどの希少資源も限界があり、これらをどうするかは今後の大きな課題である。
    2. 資源保有国による政治的な供給制限が起こる。
    3. 中東、アフリカに見る資源保有国の王族支配、独裁政治への反発による政治的不安定が供給不安をもたらす。
    4. 企業の中で資源メジャーなどによる独占的な供給源支配する可能性がある。
    5. 人口増加と高級志向により、穀物より卵や肉の需要拡大および農業生産条件の悪化による食料不足が懸念される。
    6. 資源食料価格が上昇する。

    以上のことを経済的にどう乗り越えるかが課題となる。

  3. 気候変動などの地球環境の悪化
    1. 自然のCO2 吸収量年間31億トンに対し、最近の人為的排出量72億トンと循環機能の範囲を越え、限界にきている。
    2. IPCC4次報告書では21世紀末までに世界平均気温が1.8~4.0度、平均海面水位が18~59センチメートル上昇すると予測されている。
    3. 熱波、長雨、洪水、砂漠化、沿岸地域の水没、土地の劣化、生態系の破壊、水不足、食料不足、感染症の拡大などを招く。人類の生存に警告が発せられている。
    4. COP15(コペンハーゲン)、COP16(カンクン)の例に見るように国際枠組みの合意形成が困難になり、地球環境問題への対応が大きな問題になる。
    5. 環境の悪化に地域的に偏りが生ずる。日本でも1960-70年代に太平洋ベルト地帯で公害問題が深刻になった。日本は現在かなり乗り越えられたが、世界で最も汚染のひどい20都市のうち16都市は中国にあり、中国の197河川のうち飲料、水泳、養殖の可能なものは50%以下という状況にある。
    6. 経済と環境の両立、低炭素、低資源依存の経済の探求をしなければならず、技術体系、産業構造、生活スタイルの改革が必要となる。
  4. 人口動態変化の経済へのインパクト(定性分析)
    1. 経済成長率は、一般に人口増加率と技術進歩率に依存すると言われている。資本と労働に代替性があり、労働力が少なくなっても資本を多くして成長率を高めることができる。
    2. 人口減少は市場の縮小と労働力の減少を導く。高齢者層の増加は全体として貯蓄率の低下を招く(現在では貯蓄の約65%は高齢者)。ただ日本の場合は将来に不安があるため、貯蓄率が多くなる傾向があるが、長い目でみれば率は下がってくる。
    3. 貯蓄の低下は金利上昇を招き、投資の停滞に通ずる。これは所得を低迷させ、雇用機会を縮小させる。
    4. 高齢化は年金、医療、介護など社会保障費用の増加を招き、財政構造の悪化を導く。
    5. 国債の過度の増発は、国債価格の下落と金利の上昇を招く。金利が上昇すれば株価が下がり、証券市場が低迷する。
    6. 労働市場の縮小と投資の停滞は、産業の国際競争力の低下につながり、国際収支構造を劣化させる。円安に向かうと資源や食糧の価格は上昇する。
    7. 一連の動きにより成長力を低下させ、経済はスパイラル的に下降傾向を辿る恐れがある。

3. 日本の経済成長予想

  1. 1960年代の高度成長期から73年の第一次石油危機までの成長率は年平均9.1%の伸びを示し、74年から90年までは4.2%、その後のバブルの崩壊した「失われた10年」の2009年には0.8%と急速に下がってきた。日本経済研究センターの中期経済予測(期間平均伸び率または期間平均)によると、2010年代前半の世界の成長率は5.0%、後半は4.3%であるのに対して、日本の実質成長率は、1.4%、0.9%と低下する傾向が続き、デフレから脱却できない状況にある。
    GDPも最盛期の90年に世界の14.8%だったが、2008年には8.9%まで下がり、内閣府予測では2015年には5.5%になる。
  2. 国民貯蓄率の国際比較
    日本の貯蓄率は2007年に7.8%と低く、将来の経済成長にとってマイナスとなる。2008年のカナダ12.4、ドイツ12.9は日本より高く、香港、韓国、中国はさらに高い(出所:内閣府国民経済年報 OECDデータベース)。
  3. 労働生産性水準比較
    国民経済生産性(2007年)は、為替レート換算でも購買力平価換算でも、日本を100.0とすると英国を除くヨーロッパの国々や米国は高い。労働生産性をもっと上げることが重要であることを示唆している(出所:同上)。
  4. 少子高齢化により需要構造が変化し、現状では介護分野などで介護人材の供給不足の可能性がある。労働力の移動が必要となる。これらは、社会保障制度により国が統制している官製市場であり生産性が低い。現状のままで生産要素を単純にシフトさせると生産性が低下し成長率も下がる。構造改革により今の医療・介護保険制度が価格機能を入れて合理化し、生産性を向上させていくための議論が求められる。

4. 日本の社会保障費用負担の予測

  1. 社会保障関係費
    社会保障関係費は、2010年度に27.3兆円、一般歳出に占める比率は29.5%である。社会保障関係費の主要項目は、生活保護費、社会福祉費、社会保険費で、このうち社会保険費の割合が最も高い。
  2. 社会保障の給付と負担
    1. 日本経済研究センターの中期予測によると収入は、2015年には98.4兆円、2020年は103.4兆円になる。一方、支出は2015年に102.2兆円、2020年は108.1兆円と、収入を上回ってマイナスの数字となっている。
    2. 世代間格差は日本では主要国のなかで最悪の水準と言われ、社会的に不安定な要因となる。
  3. 国民負担率の国際比較
    租税負担率と社会保障負担率を足したものが国民負担率であるが、日本(2008年)は、それぞれ25.1、15.0で、財政赤字の国民所得比は-3.4である。これらは米国に比べると若干高いが、ドイツ、フランス、スウェーデンに比べるとまだ低い。ただ、負担率が高くてもサービス内容と国民の満足度も考えることが必要となる。
  4. 公的年金のカバー率(労働力人口に占める割合)の国際比較
    公的年金(労働力人口に占める割合)はOECD平均が83.8であるが、65歳以上の比率が低い中国、インド、タイなどは非常に低い。国際的にみると社会福祉問題は大きい。



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