人口問題協議会・明石研究会新シリーズ 「活力ある日本への提言-鍵を握るのは若者と女性だ」 第1回 後編
2013.2.26
- レポート
- 明石研究会
高齢社会の課題(1)経済成長と労働市場
高齢化が経済成長の鈍化をもたらす可能性がある。具体的には、労働力人口の減少、貯蓄率の低下、技術進歩の鈍化などによる影響である。
労働力人口(働く人)は、2010年ではおよそ6600万人であった。これが将来になると、楽観的な予測では2030年に6255万人となり、400万人ほどしか減らないが、女性や高齢者の活用が進まないと1000万人くらい労働力人口が減少する。このように経済成長にとってマイナスの影響を及ぼす労働力人口に対して、高齢者が人的資源としてより貢献してもらうというのが、ひとつの解決策である。
高齢社会の課題(2)社会保障制度
社会保障財政は厳しい状況にあり、給付(支出)は右肩上がりにどんどん増大してきた。国民所得に対する社会保障給付の比率をみると、90年代までは所得も増えてきたため、社会保障費の比率は安定していた。その後、「失われた20年」といわれる90年代以降、この比率は急速に上昇している。これを何とかしなくてはいけないというのが、私の大きな問題意識のひとつなっている。
2010年度の社会保障の給付費総額は103兆4879億円。このうち医療が全体の31.2%、年金が50.7%を占めている。国民1人当たりでみた社会保障給付費は80万8100円である。2025年の給付費総額は150兆円ほどになる。2050年の給付費を独自に計算してみたら160兆円となり、増加するもののそれほど急激ではない、。
結論として、社会保障の財政をどうするかについては、給付を抑制していくことがやはり必要なのかと思う。
世代間格差について、将来の世代は社会保険料の負担の方が、年金などの給付よりも増え、現在の高齢世代と比べると(この世代は給付のほうが大きいので)、差し引き1億円くらいの差が生じるという計算がある。30代は「負担するほうが多くてすごく不公平だ」と言う。60歳以上の団塊の世代にその話をしても、なかなか通じない。
社会保障制度の課題としては、①年金制度の課題(制度改革の手段、支給開始年齢引き上げ、高額所得者の給付見直し)、②医療制度の課題(伸びが著しい医療費、高齢者医療制度の見直し)、③介護保険制度の課題(要介護認定者数の急増、保険料の上昇)がある。
高齢社会に欠かせない政策
① 経済成長の促進と労働市場
経済を成長させるには労働力人口を確保することが必要であるし、そのためには働く時間や場を自分で選べるようにして、高齢者に「社会力」として働いて欲しい。従来とは異なるより自由な「就業」概念の再構築をしたり、高齢者の起業に対する助成を行ったりする必要もある。高齢者には資産の再活用、医療産業の展開や介護産業の成熟化なども求められる。こうした産業は成長産業という意味で大事である。また、大学には社会に貢献するような高齢者向けの生涯学習の機能の充実も必要である。
② 持続可能な社会保障制度
年金支給開始年齢は今は65歳であるが、他の先進国では67歳など、さらに遅くする方向性が決まっている。本当に必要な人への給付のためには、所得の高い高齢者の年金を減らすことが必要であって、それはなかなか難しくても、若い人のため、また将来生まれてくる人たちのためにも実行しなければばらない。財政方式の見直し、医療についても若いときから積み立てていく方式などが重要と思う。若い人が活力ある社会を担っていけるような仕組みが必要である。消費税中心の税制改革など踏み込んだ議論が求められる。
③ その他の必要な施策
若者と高齢者が仕事を奪い合うことはなく、高齢者が働きやすい社会は、若者も働きやすい社会である。互いに雇用をつくっていけばよい。非正規で働く人は男女合わせて3分の1以上、女性でみれば半分以上である。これらの人への働きやすさの見直しなど、海外からの労働者も含め、就業にも「再チャレンジ」ができるように、柔軟で流動性のある労働市場をつくっていくことが課題である。個人的には、少子化対策を「子育て支援」から「出生促進策」に転換しなければ事態は進展しないとも思っている。
高齢の課題は、高齢者のためだけでなく、日本全体としてポジティブに考えないと、解決策につながらない。
質疑と討論
阿藤
私自身は先日最終講義を終え、これから悠々自適を楽しもうかとも思ったが、お二人からは「まだまだ働け」と発破を掛けられた気がする。高齢化問題は幅広いので、いろいろな側面から議論してほしい。
大変刺激を受ける話だった。加藤先生の結論について嵯峨座先生のお考えを伺いたい。加藤先生の結論に賛成だが、「子育て支援」から「出生促進」へということでは、量的な困難さというより質的な問題があると思うが、何とか解決できないか。また、選択的移民政策には、かなり長期的観点から日本社会と経済が必要とするスキルは何かなどの観点で政策的見通しをもたないと、ヨーロッパに例があるように社会的摩擦が起きる可能性がある。きめ細かい配慮が必要と思う。
嵯峨座
加藤さんの結論には賛成だが、子育て支援を出生政策にするには、実際問題できるかどうか詳しい議論が必要なこともある。日本の人口構造の長期的展望をさらに超長期に考えないといけない。人口ピラミッドでは団塊の世代が瘤のようになっているが、国立社会保障・人口問題研究所によると2060年には瘤がなくなって長方形になる。ドラスティックな出生政策をしなくても安定してくる。
大変興味深かったのは、労働力について「若い世代が高齢者と必ずしも競合関係にない」という加藤さんの話で、示唆に富んだ論点と思う。
加藤
個人的な感想であるが、子ども手当が子どもを持つインセンティブになっていない。子どもに対する給付を1人目には出さないけど3人目、4人目になったらもっと増やしていくという考え方が必要ではないか。また、最近発表された内閣府の調査で、今までは毎回減ってきた「男性が外で働き、女性は家事をする」という伝統的価値観を支持する割合が今回は増えた。これは最近の若い人が結婚や家族に対して保守的な傾向がみられる証左ではないか。お金はあるが仕事が忙しくて出会いがない、時間はあってもお金がない、そのため、婚活など結婚を促すための社会の条件をいろいろと考えなければならないのではないか。結婚でなくて同棲すれば出生が増えるとは限らない。例えばドイツでは同棲が増えても出生率は上がらない。
選択的移民政策については、ドイツでのトルコ人移民のように難しい問題もある。しかしアジアからの若い留学生を日本のファンにして取り込んで日本で働いてもらうという前向きな取り組みも必要である。
――デンマーク元大使の小川郷太郎氏から、「生産年齢人口を増やす重要な観点として、働く年齢区分を高める、女性を労働市場に入れる。そのためには、男女共同で家事や育児をする、男性の育児休暇を長期間半強制的にとらせる、人手が足りない部分で高齢者が働く女性を助ける、介護の人材不足に参入する、等がある。それによって社会保障の負担減につながる。デンマークの高齢者は、余生とか老後という暗いイメージではなく、元気はつらつとして自分らしく生きがいをもっている。幼稚園のころから、いかに自分らしく生きるかという気持ちを育てる教育を受けているから、高齢になっても自立心をもっている」という経験が話された。
――続いて、妹尾正毅・元大使はノルウェーの例として「ジェンダーの平等が非常に進んでいて、出産後の復職は100%である。家庭を大事にしている。公的機関、議会、企業では少なくとも4割以上は女性にしなければならないという制度がある。女性の労働率が高いほど1人当たりの国民所得が高い。それから国民は、税金を”とられる”と思うのではなく、有効に再配分されていると受けとめている」と述べた。
――高齢社会をよくする女性の会理事長の樋口恵子氏は「性別役割分業の支持が前回調査(41.3%)から51.6%へと10%も上がった理由はなぜだろうと考えた。これは男性筆頭に青くならなければならないほどのこと。つまりみんなが働いて税金を納めていかなければ社会が成り立たない。
私は、GDPを上げることを目的に男も女も高度経済成長を担った世代の罪滅ぼしの意味もあって、”にっぽん子育て応援団”をつくって、男女が共にいっしょに楽しく過ごせる家庭をめざしている。次の世代のことを考えない高齢者団体は存在価値がない。子育て支援でも、まして出生対策でもなくて。介護を視野に入れてワークライフ・ケア・バランスをめざして活動を始めた」と意見を寄せた。
本日は構造的な問題としての高齢化問題だけではなく、高齢者はいかにあるべきかという面からもご議論いただき、高齢者に元気で働いてもらうことの重要性が確認された。
それに加えて、高齢化問題の解決策として、特に少子化・子育ての問題、外国人労働、ジェンダー等の提言に向けたテーマが議論できたと思う。
文責:編集部 ©人口問題協議会明石研究会
本稿の転載・引用につきましては、事前に明石研究会事務局宛てご一報くださいますようお願いいたします。
また、掲載後は、該当部分をPDFにてご送付ください。
(送付先:info2@joicfp.or.jp)