人口問題協議会・明石研究会新シリーズ  「活力ある日本への提言-鍵を握るのは若者と女性だ」 第2回 前編

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2013.4.12

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「若者の雇用‐その課題と対策」

人口問題協議会・明石研究会では、2013年の共通テーマを「活力ある日本への提言-鍵を握るのは若者と女性だ」に基づき、第2回目として3月6日に「若者の雇用-その課題と対策」のテーマで以下のとおり研究会を開催し、議論を深めました。

■ テーマ:若者の雇用-その課題と対策
■ 講 師:小杉礼子(独立行政法人労働政策研究・研修機構(JIL)統括研究員)
           南部靖之(株式会社パソナグループ代表取締役グループ代表)
■ 座 長:明石 康(人口問題協議会会長)

発言の要旨は次のとおり。

明石 康

はじめに、『フリーターの働き方』など極めて多くの著書と研究の実績を持っておられる小杉さんから、統計データに基づいたお話をお願いしたい。

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2番目にお話しいただく南部さんは、1976年に家庭の主婦の再就職を応援したいと起業し、現在のパソナグループまで発展させてこられた。新しい雇用のあり方を日本社会に提言し、だれもが自由に、望む仕事ができる雇用形態の構築をめざしておられる。2003年からは農業分野の就業支援も開始し、その後東京大手町の本社ビルの地下に農場を持ち、また2008年からは淡路島でチャレンジファームを作って若者の就業希望者の支援をするなど、社会の変化に合わせた新しい雇用の切り口を求めて、情熱とヒューマニズムの下に継続的に実験を繰り返してきている。

今日のテーマに関連することであるが、2010年に人口問題協議会・明石研究会で発表した提言(注1)のなかで、「女性が働きながら子育てを楽しめる社会づくり、若者が将来に希望を持てる社会づくり、元気な高齢者が自分の”経験値”を活かして働ける社会づくりを目指すべき」、「旧態依然とした家族意識の転換を図る。働く女性の割合が高い国ほど出産率が高いことを学ぶべきである」と指摘してきた。結論的には、さまざまな角度から女性と若者への投資を緊急に検討し、実施に移すべきだと考えている。今の日本は、社会参加における女性や、若者、ならびに高齢者の大きな人口グループを活用していると言えない。

そのような意味でも、今日のお二人のお話に期待を持っている。

注1:『国際社会に名誉ある地位を占めるための7つの提言―グローバルな視点から日本の行方を考える』2010年、人口問題協議会。http://www.joicfp.or.jp/jp/2010/08/27/5328/

小杉 礼子

まず若年雇用の現状についてお話し、次に新規学卒就職という日本に特徴的な仕組みが他の先進諸国に比べて若年失業を低く抑えてきこと、さらに学卒就職にはプラスとマイナスの両面があることについてみていきたい。

1 若年雇用の現状

1) 非正規雇用と失業

日本の雇用政策では、30代前半くらいまでを若者としているが、図に示す通り、90年代初めから失業率が上がり、同時に非正規雇用が急激に増えた。2003年から5年間くらい景気拡大期があり、失業率は下がったが、非正規雇用の比率は変わらないという状況にあった。非正規雇用の若い人が急激に増えたことが問題となっている。

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若年非正規雇用で問題になるのは、就業形態によって収入の伸びに大きな格差があることである。非正規は収入が伸びない。非正規雇用では、男女、学歴にかかわらず時間当たり賃金が変わらないが、正社員では、特に大卒男性の賃金上昇率は大きい。また、能力開発にも問題があり、アルバイト・パートの場合は、教育訓練を受講していない比率が高い。

社会保障にかかわることとして、20歳代(専業主婦と学生を除く)アルバイトやパートの場合、年金に「加入していない、または加入しているかどうかわからない」という者が多く、特に男性の場合、これが約3分の1というのは問題である。90年代初めまでの非正規雇用は、中高年女性の家庭重視の働き方を前提とした「パート」が中心あったが、その非正規市場に、自立すべき若年男女が急増し、収入・能力開発・社会保障・家族形成に大きな課題を残している。しかも、人口にかかわることとして、非正規雇用や年収の低い男性の結婚率は顕著に低いことが問題である。

2)先進諸国共通の問題としての若年非正規雇用

若い人の非正規雇用の増加について、2008~2009年のリーマンショック前後には、日本だけでなくOECD諸国でも、15~24歳の低年齢・低学歴・有期雇用(非正規)という3拍子揃ったところでより多くの「雇用喪失」があったことが、共通して言える。

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正規雇用と臨時雇用(非正規)の間の賃金の差、訓練費用の差はヨーロッパ諸国と日本は同じ傾向ではあるが、日本ではその差が大きいのが特徴である。

2 新規学卒就職と組織的支援

日本では新規学卒就職という特徴的な仕組みが、就職の仕方だと考えられてきた。他の国では学校を卒業するということはまず失業者になることを意味することが多いが、日本の場合には学校から職業への円滑な移行がされ、「卒業=就職」ということが続いてきた。

日本の特徴として、新規学卒一括採用後には長期雇用を前提に企業が職業能力開発を行うことが多いが、一方、職業別労働市場は限られた分野にとどまり、職業と教育とが乖離しがちで、公的な職業訓練は弱い。

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また、高校が就職斡旋機能を持つことも大きな特徴である。職業安定法を背景にハローワークと高校を通じた組織的斡旋が行われてきた。すなわち、高校生を採用したい企業は、ハローワークで求人条件等の確認を経た後、学校へ求人を送り、生徒は学校に来た求人に学校から推薦をもらって応募する仕組みで、学校は「1人1社」ずつしか、同時には、推薦しない。この仕組みは効果的に求人を配分することになり、未就職卒業者を出しにくい仕組みである。

一方で、学内であらかじめ調整することによるマイナス面もある。生徒は同時には1社しか応募できず1社内定を得れば就職活動を終わるので、応募先を選ぶ自由が減り、企業からみれば自由な採用活動ができないという面もある。高校生への求人が減る中で、こうした組織的斡旋による就職者は減少し、卒業直後にアルバイトやパートで働く若者が増えた。さらに、高校段階での職業教育は長期的に縮小しているが、職業教育を受けずに労働市場に出た場合の方が安定的な職業にはつきにくい。

高校とは程度の差はあるが大卒就職でも組織的支援が日本の特徴である。大学の就職支援部門の役割は大きかった。また、教育内容と職業との関連は医療等の専門職養成課程を除き希薄であるという点も日本の特徴である。

大学による組織的支援は、就職情報がインターネット経由に変わってきたことで後退している。大学への調査から、未就職のまま卒業した学生の比率を2005年と2010年の2時点で比較すると、国公立と難関私立大学ではその比率が低下しているのに対して、中位と下位の私立大学では上昇している。学校間格差が広がっている。

2000年代に入ってから、学生の数はあまり変わらないが、18歳人口は減少している。すなわち、これまで大学に進学していなかった層が進学するようになっており、学生の質の低下が指摘されている。学校間格差の拡大の背景にはこうした要因もある。

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2005年の調査では、選抜性が中位から下位の大学の学生の方が組織的支援を受けたことで就職内定率が高まることが明らかになった。その支援が、近年では、インターネット経由の就職活動が中心になって届かなくなっている。すなわち、未就職者が多い大学ほど、学生の就職活動状況がつかめず、途中で就職活動やめる学生が増加していると認識しているのに対して、未就職者が少ない大学では、就職支援行事への出席率が高くなっているとする場合が多い。組織的支援が届かなくなっていることが未就職者増加の背景にあると考えられる。

3 大卒者の職業への移行の経路と課題

企業の側から大卒採用の実態を見ると、インターネット経由の採用情報提供の仕組みが、応募の集中を招き、非効率を生んでいることがわかる。応募は、インターネット上でのエントリーから始まるが、30人程度を採用する企業に3万人ものエントリーがあることも珍しくない。グループ面接を含め、面接を行える対象はせいぜい1000人程度であり、面接の前のプレ選考として、ウェブ上での学力を中心としたテストや、ターゲット大学(重点的に広報活動を行う大学)を設定しての絞り込みが行われている。

こうしたプロセスの中で、ウェブ上のテストなどによって選抜性の低い大学の学生は落とされることが多く、自分では何が欠けているかわからないまま、100社にエントリーしても面接まで進めないようなこともおこる。その結果、自信をなくし、就職活動を途中でやめてしまうことにもつながる。

大学による斡旋力を高める方向がひとつの解決となり、大学内に企業を呼んでの面接会を行ったり、ハローワークからの情報提供を増やすなどして、大学の組織的支援力を高めることが重要である。

新卒就職の枠外での移行経路について

<新卒採用正社員+企業内訓練=典型キャリア>という経路を外れてしまうと、キャリア形成、職業能力開発の課題は大きくなる。

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図に示すように、景気後退局面においては、新卒採用は厳選化し、新卒求人倍率は下がる。求人倍率が下がれば、未就職卒業者比率は高まる。学生が就職できるかどうかは卒業時期に左右される。すなわち、いつ生まれたかによって左右されることになる。1970年ごろまでの生まれの人はだいたい8割が新卒就職できていたが、その後徐々に下がり、1980年初め生まれでは6割くらいしか新卒就職できていない。さらに、その世代の20代後半の正社員比率をみると、新卒就職が厳しかった世代は、その後も正社員比率が低く、5年、10年にわたって影響を引きずっていることがわかる。

日本の労働市場は学校卒業時未就職者、中途退学者には厳しい市場である。日本の学校から職業への移行の仕組みは、若年失業を減らすという点では優れた仕組みであるが、一方で、たまたま不況期に卒業時期を迎えて未就職のまま卒業したり、学校を中退したりした若者には厳しい結果をもたらす。非典型雇用から正社員への移行などの非典型雇用者のキャリア形成支援、ニート層の職業的自立支援が重要な政策課題となる。

若年非正規雇用の正社員への移行について

非典型雇用から正社員への移行が起こっていないわけではない。すでに、既存統計の分析や実態調査によって、第1に、景気拡大期には増加しており、企業側の労働力需要が強ければ移行は起こりやすいこと、第2に、女性より男性の方が移行しており、また、男性の場合結婚の前後に移行が起こりやすいことから、個人の側の意志や生活設計が影響していること、さらに第3に、移行前の職である非典型雇用において、正社員並みの労働時間で働いていたり、移行後の職種や業種と同一の職種、業種で働いていたり、非典型雇用である移行前の仕事でOff-JT(Off the Job Training:職場を離れての訓練の経験があること)を受けていたり、OJT(On-the-Job Training:企業内で行われる訓練)を数多く受けていたり、これまでのキャリアの中で自己啓発を行っていたり、初職の職場で将来について相談できたり教える雰囲気があったりすると、移行は起こりやすいことが明らかになっている。

政策的に非正規から正規への移行を促進するためには、第3に挙げた初職や前職での経験の効果に注目した政策を展開することが効果的であろう。この要素を持つのが「ジョブ・カード制度」の有期雇用型訓練である。これは有期雇用で雇った訓練生に、企業外でも通用する訓練プログラムにのっとったOff-JT、OJTの機会を提供し、キャリアカウンセリングを踏まえて、訓練の成果をジョブ・カードに記載するものである。訓練生として雇われた先にそのまま正社員として雇用されたり、他の企業で正社員として雇用されることを目指すものである。

4 求められる若年雇用支援施策の方向性

今後の若者雇用支援としては、第1に、これまでの新卒就職の仕組みを強化・補完することが必要である。学校の組織的斡旋の機能を高めるためにハローワークと学校の連携を強めること、新規学卒採用の対象者の幅を広げ、一定年齢までの既卒者を新卒採用に応募できるようにすること、職業教育・キャリア教育の拡充すること、学校中退防止、中退後の移行支援を行うことなどが必要であろう。

第2に、新卒就職の枠外での移行経路を確立することが必要である。景気変動に加えて、グローバル経済化などの環境変化が進む中で、新卒採用の仕組みに乗れない層は今後も少なからず出ると考えられる。ジョブ・カード制度などを活用した正社員への移行の仕組みを確立することが重要である。

正規と非正規の格差に加えて、新卒時には非正規や無業であった者が後に正社員になった時、処遇や社会保険などの面で新卒正社員との違いが大きいことも指摘されている。処遇上の格差の要因として、「後から正社員」の場合中小企業での採用が多いことがあると考えられる。労働条件の規模間格差は、簡単に解消できるものではないが、人を大切にし、育てる企業や、入社時の職業訓練が充実している企業等を見極められるような情報提供が重要であろう。



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