人口問題協議会・明石研究会新シリーズ  「活力ある日本への提言-鍵を握るのは若者と女性だ」 第4回(後編)

2013年7月23日

  • 活動レポート
  • 明石研究会

小川 郷太郎

私がデンマークで勤務したのは2003年から2006年までの2年9カ月だったが、そのころの経験を踏まえて、資料とともにデンマークの少子高齢化社会の教訓について話したい。

1. デンマーク在勤中の強烈な印象

人口550万人という小さな国で生活してみて、人間の生き方、社会の仕組みについて、次のようなことが強く印象に残っている。

  • 組織の簡素さ、社会の透明性、平等感、格式のなさ
    (閣僚、王室、組織のトップなども、誰に対しても気さくに接する)
  • 人間中心、家庭中心の生活
    (通常夕食は家族一緒に、また、週末もいつも家族が一緒に行動している)
  • 定時退社(殆どの人が残業もせず、帰宅する)
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    男女協働の家事・育児
    (1960-70年代に国の経済が発展し、人手不足もあって、多くの女性が労働市場に参入した。女性も大部分は働いていて、先に帰宅したほうが家事をし、男性も育児を一緒に楽しみそれが幸せだと思っている。)
  • 個人の自立性教育
    (幼少時から、物事を自分で考えて行動できるような教育が行われている。これは、高齢者になっても自立心が強いことにつながる。人生の最期を自分らしく生きていく意思がある。)
  • 小国意識:グローバリゼーションへの対応
    (小さな国であることを認識し、敏感に対応できるようにしている。そのためにイノベーション志向も高い。)
  • 高負担、高福祉:世界で最も幸せな国民
  • 政治への信頼性、迅速な社会変革(在勤中に地方自治体の改革が迅速に行われた)
  • ニッチ部門で多数の世界企業(global nichers)
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上図は、2013年に公表されたデンマーク統計局による男女別人口のピラミッドである。
全体の10%ほどを移民が占めている。

2. 基礎的指標

  • 高齢人口の割合:16.1%(2009年)
  • 合計特殊出生率:1.8 (1983年史上最低1.38、それ以降各種対策)
  • 1人当たりGDP:59,889ドルで日本より高い。(日本:45,902ドル) (出典:世銀/2011)
  • 国民負担率(対国民所得比):租税+社会保障負担率(2009年)
    デンマーク 66.7%+ 2.7% =69.5%
      cf. 日本  22.0%+16.2% =38.3% (厚労白書H24年版第5章 国際比較から)
  • 低いジニ係数: 所得分配前:0.42、所得分配後:0.25(OECD諸国で最低であり、平等感が高い。)

3. 労働市場における要因

  1. 充実した労働市場政策(フレキシキュリティー:フレキシビリティとセキュリティの造語)
    解雇の容易さ:平均転職6回(EUで最大)
    年功序列給与体系ではない
    手厚い失業手当:2年間、直前給与の80~90%
  2. 女性の高い就業率/外国人労働者の活用
    就労年齢の74.8%(25~54歳では約80%)
    保育・学童支援制度:統合児童施設(0~6歳)を各地に設置
    13歳までの学童を学校の授業外でケア・指導する制度
    0~3歳児の親のフレックスタイム勤務・在宅勤務制度
  3. 高い労働力の資質
    積極的労働市場政策:職業教育・訓練プログラムの充実
    (衰退部門から成長部門の産業への労働力移転)

これらについては、下記の2つの図にもう少し詳しい説明をつけておく。

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産休・育休について在デンマーク日本大使館の資料を基に補足する。

2011年の男性の育休取得日数は平均36日(2012年には38日)、女性の産休・育休取得日数は平均295日、これを合わせると331日であり、全体で52週とれるうちの47週あまりである。女性だけが産休・育休を取得した日数は311日とのこと。デンマークでは法律上では、女性は産前12週間、産後14週間の産休がとれて、この間、雇用者は給料の半分を支給する、男性は2週間とれるが無給となっている。

デンマークでは、労働組合の力が強く、商工会議所の資料によれば、労使協定によって給料の全額支給もあり、実際の待遇はもっとよい。

デンマークから日本は何を学ぶべきか

日本とデンマークの生活の仕方は大きく違っていて、全部のまねは到底できないが、いくつかは参考にし、努力してとりいれていくのが是非必要ではないかと思う。

  1. 組織の簡素さ、定時退社、男女協働(三位一体)→出産と女性の職場維持の両立→「生き方」の改革
    個人・職場の双方で発想の転換が必要で、人間性、家庭を中心にした、本当の幸せとは何かが問われている。少なくとも、育児期の男女の定時退社、父親の育児参加は、日本でも是非実現していくべき。
    定時退社を可能にするためにも、決裁、協議、決定過程の合理化してもっとフラットな組織にしていくことも日本社会全体で考えていくことが必要。
  2. 税と社会保障改革→国全体としてどういう方針で臨むかの議論が必要で、現状では「中福祉、中負担」でいくしかないと思うが、制度の青写真を国民の前に明らかにして、税金を上げていくのはどうか。デンマークでは租税負担率はかなり高く、給与の約半分を税金で納め、消費税も25%と非常に高い。教育、医療、介護サービスは原則無料であり、所得の半分を税金でとられても残りの半分で心配なく生きていけるような社会の仕組みになっている(日本のように、将来が不安だから貯金をするということは不要)。
  3. 子育て関連施設・制度の拡充:施設増設、子どもを受け入れる時間の拡大、対象児童の年齢層拡大、ボランティア要員の確保は、日本でも多少は進んでいるが、さらに充実を図る必要がある。
  4. 日本では、人手不足の分野が多くなっているから、女性および外国人の労働市場参入拡大策をとっていくのも大事なこと。労働人口を増やすことによって税収も上がっていくことになる。
意見交換

阿藤
お二人ともそれぞれの国について豊富な経験をお持ちで、とても示唆に富むお話をいただいた。それでは、みなさまからのご意見をどうぞ。

明石 康

 

 

興味深くお聞きした。デンマークでは出生率が1.38まで下がった後、1.9まで回復したというのは、日本にとっては希望を与える例として参考になるかもしれない。それから、お話のなかで触れられなかった点で、日本との違いには、宗教的・文化的な基盤が両国とも背後に潜んでいるのではないかと思っている。プロテスタンティズムの伝統が根強く、近代においては社会民主主義が二つの国の平等の精神の背景になっているのではないか。これらの国では国際社会が決めた、対GNI比の0.7%以上を途上国に対して拠出するというODAをすでに満たしている。精神的な人類の共通感があるのかそのあたりはどうか。

妹尾
ノルウェーの場合は、ルーテル派のプロテスタントは非常に個人を尊重する社会で、制度的には男女平等的、一人の人間として、一人ひとりが協力しあっている、と指摘されている。
ノルウェーの一人当たりのODAの量は、毎年のように世界第1位であるが、その背景には国連中心主義とかODA重視政策が自国の安全保障の維持に貢献するという考え方があるのではないか。

小川
デンマークでは民主主義の価値や言論の自由を重視している。また、質素な生活の中で宗教的にも人間を大事に見ていることが、ODA政策につながっていると思われる。

明石
デンマークではニッチ産業があるということだが、TPPとの関連で日本の農業にとって参考になることはないか。

小川
デンマークでは1農家の平均耕作面積が50haというように大規模で効率的に農業をしている。また、農業分野でもなんでも生産するのではなく、競争力のある分野に特化している。畜産でもごく限られた分野(ブタ肉、チーズなど)に特化して輸出産業に力を入れている。

明石
デンマークの高負担・高福祉のレベルまで日本がいくのは難しい。その意味でモデルにはならないと思うので、中負担・中福祉をと提案されたのかと感じた。

阿藤

 

 

お二人から日本とは相当に違う二つの国の例をお話いただいた。子育てのしやすさなど日本から見ると羨ましいような社会環境だが、これらを参考にして日本社会も変わっていって欲しいと思う。ただし、忘れてはならないのは、両国の手厚い社会保障の裏には、それに見合う高い税負担があるということだ。それを国民が受け入れている背景には、これを支える高い経済力や豊富な資源があるという面がある。さらに、両国の社会的バックボーンとして個人の自律・自助の精神があるという点は興味深かった。

文責:編集部 ©人口問題協議会明石研究会
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