【2019年度人口問題協議会 第1回明石研究会】(前編) ICPDから25年―第52回国連人口開発委員会の報告

2019年8月13日

  • 活動レポート
  • 明石研究会

2019年4月1~5日に 第52回国連人口開発委員会(52nd Session of Commission on Population and Development:CPD){テーマ「国際人口開発会議行動計画から25年を迎えて」}が開催された。
そこで、日本政府代表の一人として会合に参加された林玲子氏を招いて、CPD52の概要と少子高齢化のサイドイベントなども含めて報告していただいた。また、6月17日に国連人口部が発表した「世界人口推計2019年版」についての解説もあった。

日 時 2019年7月18日(木)14:00-16:00
テーマ ICPDから25年― 第52回国連人口開発委員会の報告く
報告者 林 玲子(国立社会保障・人口問題研究所 国際関係部長)
座 長 阿藤 誠(国立社会保障・人口問題研究所 名誉所長、人口問題協議会代表幹事)

発言の概要は次のとおり。

林 玲子

はじめに
 1年前の2018年6月にも明石研究会で、第51回国連人口開発委員会と、アジア太平洋人口開発閣僚宣言の中間評価会合(2018年11月)に向けた日本のカントリーレポートなどについて報告した。
https://www.joicfp.or.jp/jpn/2018/06/26/39761/
 中間評価会合で、参加各国から提出されたカントリーレポートは報告書にまとめられている(ESCAP/APPC/2018/5)。

 この会合の中で日本政府はUNFPAやERIA等と共催で、2016年に打ち出したアジア健康構想の一環でサイドイベントを行い、アジア太平洋地域の高齢化対策について報告や議論を行った。アジア健康構想では介護面の施策で人の移動も含まれているが、介護に関する外国人の在留資格は、種類が増え、特定技能も2019年4月から始まった。

 また、8月の第7回アフリカ開発会議(TICAD 7)に向けてアフリカ健康構想も立ち上げられたことから、保健と衛生が中心ではあるものの、長崎大学の増田研先生や私が関わっている研究プロジェクトが主催してアフリカの高齢化に関するサイドイベントを計画している。アフリカでは高齢者の割合はまだ少ないが、人口全体が増えるため高齢者数は20年間に2倍、30年間に3倍になると予測されており、その増加割合はアジアやラテンアメリカと同じくらいである。いずれアフリカでも介護の問題が出てくる。 

第52回CPDの概要
 2019年4月1日~6日に国連本部で各国の政府関係者・人口専門家が参加して開催されたCPDのテーマは、「国際人口開発会議行動計画の評価と2030持続可能な開発アジェンダのフォローアップと評価に対する貢献」だった。CPDの冒頭に採択された宣言文(E/CN.9/2019/L.3)の内容は、次のとおりである。

  • カイロ国際人口開発会議行動計画の着実な実施
  • 地域評価会議採択文書の重視
  • カイロ行動計画と持続可能な開発目標(SDGs)の重要性を強調
  • カイロ行動計画のために途上国への支援の必要性を認識(この部分は議論があるところ。先進国が途上国に援助するという構図だけでなく、今では各国が自分たちで開発に責任を持たなければならないし、さらに市民団体やゲイツ財団のような国際的な組織が協調することが必要)
  • SDGs達成のために人口の正確なデータが重要
  • これまでの争点は盛り込まれず

 今までの争点は次のとおりである。
<争点1>性と生殖の健康と権利(セクシュアル/リプロダクティブ・ヘルス・ライツ、SRHR: Sexual and Reproductive Health and Rights)

  • ICPD行動計画の中には、“Sexual and Reproductive Health” と“Reproductive Rights”という文言は取り入れられたが、Sexual and Reproductive Health and Rightsという用語は用いられていない。
  • しかしその後、Sexual Rights(性的志向、LGBTの権利を含む)を盛り込むべきとの国連内での流れがあり、Sexual and Reproductive Health and Rightsを文書に取り入れようとする動きが人口開発分野にも登場。
  • アジア太平洋人口開発閣僚宣言、モンテビデオ合意(LC/L.3697)には取り入れられた。
  • バチカン、アフリカグループ、イスラム諸国、ロシア等は反対している(米国は民主党と共和党の政権が変わるたび異なる立場)。
  • Sexual and Reproductive Health and Reproductive Rightsが妥協的な用語として使われることもある。

 参考までに、日本での性の多様性について述べると、日本では2015年がLGBT元年と言われている。2019年1~2月に実施した「大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート」は、性的少数者に関する全国最大規模の無作為抽出調査であるが、回答者の3.3%が LGBTAのいずれかに該当、85%以上が大阪市の LGBT などの性的少数者に関わる各種取り組みに賛成していることが明らかになった。
http://www.ipss.go.jp/projects/j/SOGI/

<争点2>包括的性教育(Comprehensive Sexuality Education : CSE)

  • アジア太平洋人口会議(2013)ではCSEを盛り込んだ閣僚宣言は、ロシアが性教育は家族で行うべきとし、イランはカイロ行動計画にない用語であると反対
  • 2014年CPDでは、サウジアラビア、バングラデシュ、バチカンなどが、性教育は家族、親が行うべきと反対
  • 2015年CPDでは、ナイジェリアを代表とするアフリカグループが国内状況(文化・宗教)を踏まえた上で性教育を行うべきと反対
  • アジア太平洋人口開発閣僚宣言中間評価会合ではUNESCOその他によるCSE推進サイドイベントが開催され、多数の参加
  • 日本ではCSEは未導入といえる。例えば中学生に学習指導要領には含まれないコンドームの使い方を教えることの是非が論争を起こしたが、このような内容がCSEに含まれている。

包括的性教育の内容

(出典 : UNESCO他 “International technical guidance on sexuality education”, p.35)

https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000260770

 UNESCO、UNAIDS、UNFPA、UNICEF、UNWOMEN、WHOが共同で作成したガイドブックではCSEとは上図のように①関係性、②価値観・人権・文化とセクシュアリティ、③ジェンダーを理解する,④暴力と安全でいること、⑤健康とウェルビーイングの技、⑥からだと発達、⑦セクシュアリティと性行動、⑧性と生殖の健康の項目により構成されており、①~⑤のような関係性やジェンダーの理解などもきちんと教えるべきだとしている。

 日本ではこれらの項目のうち、⑥~⑧をいわゆる性教育としている。日本人口学会では東日本地域部会や大会企画セッションなどで、性教育についてさまざまな議論をしているところである。日本で2000年代はじめに性教育バッシングがあり、男女共同参画基本計画(第2次)策定に当たっては、「年齢、発達に応じた正確な知識」や「ジェンダー」という用語の是非をめぐり激しい議論となり、最終的に「適切な性教育の推進」が盛り込まれたが、その後の第3次(2010年)、第4次(2015年)の男女共同参画基本計画では、「性教育」という用語すら入っていない。

 CSEに関するエビデンスとしてユネスコは、CSEにより有害な影響はない、性病罹患率を下げているわけではないが、若者の知識と態度を向上させることを挙げている。CSE反対派はCSEが有効であるというエビデンスは有害であるというエビデンスよりも少ない、といった、異なる内容を示している。CSEのアウトカム指標は性交渉頻度を下げ、コンドームの使用を増やし、妊娠と性病罹患率を下げることとなっているが、教育とアウトカム指標の関係は明確に数値で評価することが難しい。

 CSEの議論は人工妊娠中絶に関する議論と同様で、国によって、また米国では各州ごと、加えて団体間での論争があり、「安全な中絶」はありえないという観点で中絶に反対する団体もあるなど、まだ議論は続いている。

 SDGsでは、15~19歳の出生率を下げるべきだとされている。昨年のカントリーレポートでは日本の場合、15~19歳の出生率よりも中絶率が高いことを問題視したが、出生率自体は世界で2番目に低い。日本ではCSEをそのまま取り入れられていない状況であるが、先ほど示したCSEの1~3が示すような関係性、価値観、ジェンダーの教育を通じて、出生率向上につながるような行動変容を促すのではないだろうか。

低出生と高齢化に関するサイドイベントから
 人口と開発の新たな課題のひとつとして、低出生と高齢化に関するサイドイベントが、日本、ベラルーシ、チュニジア、ブルガリア、UNFPA、ヨーロッパ経済開発委員会などの共催で行われた。

 日本、メキシコ、ブルガリア、チュニジア、カーボベルデ、モーリシャス、UNFPAから、各国および世界的な少子高齢化の状況の報告があった。

 私からは日本の超高齢化(すでに28%を超えている)、何歳からを高齢者と決めるかといった年齢感覚、介護保険を含めた政策対応、人口減少下の高齢者と女性の活躍促進について簡単に説明した。さらに日本における2005年からの合計出生率上昇の一つの要因は不妊対策として体外受精など生殖補助医療(現在では全出生数の5.5%)が進展していること、また代理母をはじめ国境を越えた生殖補助医療に関する倫理的な問題も残されていることに言及した。その他、高齢者の孤立、および8050問題(仕事がない50代が80代の親の年金で暮らす生活)についても加えた。8050問題については2018年のESCAP社会開発委員会で大洋州の政府高官による同様の発言もあり、世界で同時並行的に進んでいることかと思われる。

 日本よりさらに人口減少が続く東欧や、モーリシャスなどでも急速に人口高齢化が進行しており、少子化と若者の移出が問題となっている。アクティブ・エイジングの促進や、移出しがちな若者のエンパワーメントを図るといった世代間の連携が必要であること、不妊対策など新たな性と生殖の健康の課題が浮上していることなど、多くの検討点が取り上げられた。高齢化に並行して、低出生率、少子化が、人口問題として取り上げられるべきではないか、との意見も出された。

CPDの今後
 CPD53(2020年4月予定)のテーマは「人口、食糧安全保障、栄養と持続可能な開発」である。2020年には東京で「成長のための栄養サミット2020(仮称)」も予定されている。栄養問題には、飢餓・栄養不足と過剰による肥満の両方があり、SDG2では「飢餓をなくす」ことが目標に入っているが、SDG10の格差是正として栄養問題を考えることも重要。人口問題は当初は食糧問題であり、今後どのように取り組むのか討議されることになっている。

 これまでは食糧は足りている、とのことであったが、現在77億の人口が将来100億人になっても食料は足りるのか、再考の余地はあるかもしれない。

 CPD54(2021年4月予定)のテーマは「人口と持続可能な開発、特に持続的で包摂的な経済成長」とされている。

後編に続く

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