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アフリカの妊娠と出産〜ガーナでの若年妊娠の課題を解決するために

2023.3.3

ホワイトリボンラン2023では、ガーナ共和国イースタン州の7地区の若者、特に少女を支援します。アフリカの妊娠・出産事情と、ガーナへの支援について、お伝えします。

アフリカの女性の現状ー杉下智彦先生

サハラ砂漠以南のサブサハラ・アフリカ地域には、経済の停滞による貧困、インフラの不整備、干ばつや洪水など自然災害、紛争、教育環境の不足など、さまざまな課題が存在します。

その課題のなかには、多くの女性のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス(SRH:性と生殖に関する健康)も含まれます。アフリカの女性の健康課題について、その一部を紹介します。

・妊産婦の死亡率は日本の130倍以上

妊産婦死亡とは、妊娠や出産、中絶が原因で女性が亡くなること。サハラ以南アフリカの2020年の妊産婦死亡率は、日本の約130倍にも及びます(妊産婦死亡の動向2000-2020,WHO他)。

・世界で1年に起こる産科フィスチュラのほとんどがアフリカ全土で起こっている

3日も4日もかかる長時間の分娩により、胎児の頭部で骨盤を圧迫したことで組織が壊死し、膣と膀胱や直腸がつながってしまう「産科フィスチュラ」は、世界で5〜10万件です(WHO,2018)。そのうちほとんどはアフリカで起こっており、適切な分娩介助がないために起こっていると推測されています。

・世界で起こる妊産婦死亡の約2/3が、アフリカで起こっている

世界で亡くなる妊産婦は、毎日約800人。そのうち、約3分の2が、サハラ以南のアフリカで発生しています(WHO,2021)。世界での経済的、地理的な原因による健康格差が著しいのです。

・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で女性がさらに困難な状況に

ロックダウンにより子どもや夫の面倒を見る時間が増加した、突然解雇され給与を受け取れなくなった、失業保険がないためにパンデミックで収入が全くなくなった、自宅隔離などで家族が常にいることで家庭内暴力を受けるようになった、という女性のケースが増えています。ケニアでは、感染リスクを恐れて定期的な妊婦健診を受けなかったために、高リスクの分娩が増え、緊急帝王切開の実施率が急増しました。

また、感染リスクの回避によって子どものワクチン接種率が低下しています。さらに、望まない妊娠や中絶の件数、休校による児童婚、貞操を守るための伝統的な儀礼とされる女性性器切除術(FGM)が増えるなど、予想を超えることが起こっています。

参考:
https://tokyo.unfpa.org/sites/default/files/pub-pdf/shi_jie_ren_kou_bai_shu_2020_quan_ye_web.pdf
https://www.joicfp.or.jp/jpn/column/effects-covid19-2021/

サブサハラ・アフリカのガーナの若者を、ホワイトリボンラン2023で支援する理由ー山口悦子

ジョイセフでは、2016年から3月8日の国際女性デーと連動する形で、「ホワイトリボンラン」というチャリティイベントを実施しています。ホワイトリボンが掲げる「すべての女性が健康で自分らしく生きられる世界」を目指します。


昨年のホワイトリボンラン2022では、参加費やチャリティアイテムの寄付金で、サブサハラ・アフリカ地域にある、ケニア共和国を支援しました。2023年は、同じくサブサハラのガーナ共和国イースタン州の7地区で、若者のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)を推進します。

ガーナといえばチョコレートの原料、つまり、カカオ豆の一大産地です。日本で輸入しているカカオの7割が、ガーナから来ています

©Miki Tokairin / JOICFP


©Miki Tokairin / JOICFP

国土面積は日本の約2/3、人口は日本の約1/3の3107万人。複数の民族がいて、それぞれの言語を持っています。宗教もさまざまで、国民の約7割がキリスト教、約2割がイスラム教、残りが伝統的な宗教を信仰しています。

ジョイセフは、2003年からガーナの各地で支援をしてきています。でも、まだ支援が届いていない地域があります。

一人の女性が生涯に産む子ども数の平均:合計出生率 3.8(1.3)
平均寿命 64歳(85歳)
妊産婦死亡率:出生10万あたりの死亡数 308(5)
医療スタッフの立ち会いによる出産 77.9%(100%)

※カッコ内は日本の数値※出典:world bank、世界人口白書2022

このうち、妊産婦死亡率、医療スタッフの立ち会いによる出産は、特にガーナと日本に深刻な開きがあります。

2022年には、現地通貨とドルの為替レート下落による債務危機、40%以上のインフレ―ションが起こり、脆弱な立場にいる人々、特にお金を稼ぐ手段の限られている若者が影響を受けました。

そのなかでも10代の少女が、今日明日の食事代のために性交渉し、予期せぬ望まない妊娠をするというケースが増えています。

このような背景があり、2023年のホワイトリボンランではガーナの若者を支援することになりました。

・ガーナで起こっている若年妊娠の課題

10代での妊娠は、次のような影響があると考えられます。

体が未発達なために負担が大きい

約半数は意図しない妊娠であり、安全でない中絶に至るリスクが非常に高い

10代で妊娠・出産すると、学校をやめざるを得なくなるケースが非常に多い。教育を受ける機会を失うことで職業の選択肢も狭まってしまう

18歳以下で妊娠する女性はパートナーの暴力にさらされやすいことが、統計的に挙げられている

※出典:世界人口白書2022

©Miki Tokairin / JOICFP

ガーナの妊婦の11%は、10代です。首都・アクラの北部にあるイースタン州では12.3%とガーナ全体よりも高く、ホワイトリボンラン2023の支援先であるイースタン州の7地区の一部では、19.3%というデータがあります。

これを解決するには、若者自身の情報や知識不足を補い、若者のSRHRを守る社会文化がつくられ、利用しやすい保健サービスの整備が必要です。

ジョイセフは2023年4月からの1年間、地域の医療スタッフや大人と連携することで、これまで養成した若者ピア・エデュケーター(PE)による地域での啓発活動を強化していきます。

目的は、以下の3つです。

①若者のSRHRに関する知識の向上
②大人による若者のSRHR推進への理解の向上
③若者によるSRHサービスの利用増加

また並行して、以前に建てたユースセンターで保健サービスを提供するほか、各地域での大人のサポーターの養成も計画中です。人々への影響の強い宗教的なリーダーや地域のリーダーも巻き込み、PEをサポートできる保健運営委員会を設置したいと考えています。

世界各地での女性の健康の課題は、特定の国・地域や女性だけの課題ではなく、環境や社会に深く関わっています。性別や所属を超えて地域ぐるみで全員で取り組み、少しずつ紐解いていくことで初めて達成できるのです。

最後に、ガーナイースタン州で最も若年妊娠が多い地域で活動している、PEのDargye Kerenさん(24)さんの言葉を紹介します。

アシスタントナースとして働いていたときに先輩からPEの活動を教えてもらい、2021年7月から活動しています。私自身18歳で妊娠してとても苦労しました。他の人には、同じ経験をしてほしくありません。今住んでいるロワー・マニャ・クロボ(Lower Manya Krobo)は、10代での妊娠の割合が高い地域です。これを改善してガーナ全体での若年妊娠の減少にも貢献しながら、PEの数ももっと増やしたいです

 


 

杉下智彦先生
屋久島尾之間診療所 院長、東京女子医科大学 客員教授、ジョイセフ 理事
マラウイ、タンザニア、ケニアなど、アフリカ20カ国でグローバルヘルスなどの健康課題解決に取り組む。専門は、保健システム、外科、公衆衛生、地域保健、プライマリヘルスケア、医療人類学。インタビュー記事
※書籍『反集中』(ミラツク)にも収録

山口悦子
ジョイセフ 事務局次長/開発協力グループグループ長

(編集:松本麻美)
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