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医療援助の最前線から見る中絶。知ってほしい4つこと

2022.4.4

ジョイセフでは2019年から、毎年9月28日「International Safe Abortion Day」(安全な中絶・流産のための国際デー)に向け、アクティビストを対象にリプロダクティブ・ライツのひとつ「安全な中絶」をテーマに勉強会を行っています。2021年は「選べない今から、選べる未来へ」を開催しました。

産婦人科医の空野すみれさんは、2018年から「国境なき医師団」で活動しています。非営利の医療・人道援助団体である国境なき医師団の活動原則は、独立性、中立性、公平性。難民キャンプや紛争地、食糧危機や自然災害、感染症の流行、薬・医療施設がないなどの困難に見舞われている、88の国と地域、場所で活動しています。その最前線で行われる中絶ケアについて教えていただきました。

1、「安全でない中絶」は合併症や死亡の原因に

国境なき医師団では、内科疾患や外科疾患、分娩介助などのほか、栄養失調やマラリアの治療、安全な中絶も実施しています。その理由は、世界中の妊産婦死亡の主な原因のひとつが「安全でない中絶」だからです。

安全な中絶を実施できれば、中絶による妊産婦死亡は完全に予防できます。でも、国境なき医師団の活動地域の多くでは、中絶が非合法だったり医療の知識や設備そのものが届いてなかったりします。

そのため多くの人が、ハーブや危険な薬剤を飲む、腹部を殴る、鋭利なもので体を刺すなどの「安全でない中絶」によって感染症をはじめとする重い合併症になったり、場合によっては死に至ることもあります。

このことから、「包括的なリプロダクティブ」のパッケージを提供しています。避妊・安全な中絶・中絶後ケアの実施に加えて、中絶に関する教育・アドボカシー活動・研究も行っています。

2、薬剤による中絶には多くのメリットがある

安全な中絶は、女性の健康のために必要不可欠なヘルスケアです。国境なき医師団の実施方法は、世界保健機関 (WHO)が推奨する「手動吸引法(MVA)」もしくは「薬剤」で、そのほとんどが、薬剤(中絶薬)によるものです。

薬剤には、メリットが以下のように多くあります。

①服用後に子宮の中のものが排出されるので、体を傷つけません。②特に妊娠初期の場合は、外来でも実施できて受診回数を減らせます。③受診回数が少なければ、プライバシーや秘密を保てます。④外科的なスキルをもたない医療者でも実施できます。⑤実施に必要とされる衛生環境のハードルが低い。⑥薬が安価。⑦薬を冷蔵保存する必要がありません。

中絶後は、医療従事者は環境に応じてフレキシブルに患者に対応していく必要があります。定期的な診察は基本的には不要ですが、本人が不安に思ったり、心理的なケアが必要な場合は、診療に来ていただいています。

3、患者の決定と意思を尊重して対応

国境なき医師団が発行するガイドライン『Essential Obstetric and Newborn Care』(産科と新生児の必須ケア)には、「The decision belongs to patient. Her decision should be respected and there should be no judgement.」( 決断は患者自身が行うもの。その決断は尊重されるべきであり、(提供者による)決めつけがあってはならない)と書いてあります。

中絶を求める女性の多くは、すでにさまざまな思いや考えを巡らせたうえで受診しています。「安全な中絶」の提供者は、プライバシーに気を使い、常に中立的な立場を保ち、患者には敬意と共感を持って接することが必要です。

提供者の姿勢は、ケアへの患者の施術方法や体、医療についての理解に影響します。さらに、そのときの体験や印象によって、今後受診が必要になったときに来てくれるかどうかも左右します。

そのため、提供者は自身のアンコンシャス・バイアス(無意識に持っている偏見)と向き合って、中絶ケアへの影響を最小限にする必要があるのです。

4、中絶を受ける女性の立場は多様

国境なき医師団は、International Safe Abortion Dayに「My abortion story」(英語/日本語の一部抜粋版はこちら)という記事を公開しています。このWebページでは、世界中の中絶を経験した女性が共有してくれた自身の体験を掲載しています。

例えば、今育てている子どもたちの成長を見届けるのを優先して中絶した女性、夫と話しあいながら最後には「自分で決めることが大事」と決心した女性、「安全でない中絶」の合併症で一時危険な状態になったけれど助かった女性など、さまざまなストーリーが綴られています。

中絶を受ける女性は、身体的にも心理的にも、社会的な状況も、それぞれが多様です。My abortion storyを通して、中絶を選択した女性たちが実際に経験したことや想いを知っていただけると思います。ぜひWebページを訪れてみてください。

中絶は「命を救う」ヘルスケア

私自身は国境なき医師団の活動を通して、分娩を介助することも安全な中絶の提供も命を救うために必要不可欠なヘルスケアだと考えるようになりました。

日本では、女性のケアに関しての選択肢が狭められているようにも思います。また、医療者が考えるケアを女性に提供するという考えが強いと感じます。その理由のひとつは、世界の標準や実施した状況などの情報が入ってこないことかもしれません。

国境なき医師団が現地で行ってきた女性のケアについて私が発信することで、日本でもケアの選択肢が増え、一人ひとりの決定が尊重されるようになればいいなと考えています。

プロフィール

空野すみれ
産婦人科医。2013年神戸大学卒業。2018年より国境なき医師団に参加。
これまでに、南スーダン、ナイジェリア、コートジボワールで活動。

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