経験が積み重なっていく喜び、 その中での発見の数々が愛おしい。

事務局長補
浅村 里紗

時が経つのは早いものですが、その間に3人の子育ても経験しました。
私は子どもの頃、父の仕事の関係で4年ほど、南アフリカ共和国に暮らしたことがあります。小学生でしたが、その時の経験が今につながっている気がしています。

人の魅力をつくるのは肌の色でも性別でもない

当時の南ア共和国はアパルトヘイトの真っ只中です。そこに暮らす日本人は名誉白人と称されていて、白人居住地に住まいがありました。黒人の人たちは別の居住地で暮らすことが強要され、そこから出るためにはパスが必要。

黒人の居住地から私の家に、17歳くらいのメイドさんが来てくれていました。教育を十分に受けることができずにいて、世界地図が分からないほどでした。週末になると彼女は自分の居住地に戻るのですが、翌週に会うと、殴られたあとがあることも…。この現実を目の当たりにし、私は子どもながらに悩み悲しみ、円形脱毛症になったこともありました。

しかし現地で会った人たちは本当に素晴らしい人ばかり! 人の魅力をつくりだすのは肌の色でも性別でもなく、「人間力」なのだと感じたことを覚えています。

子どもの頃から絵を描くのが大好きだった私は、数カ国で暮らしたあと英国の美術大学を受験。入学が決まったものの、なぜか直前になって「違う!」と感じ、社会学を勉強するために進学。卒業後はそのまま、ジョイセフのスタッフになりました。

当時の私の中で何を違うと感じたのかは思い出せませんが、恐らく少女時代の南ア共和国での経験が、心の奥底にあったのだと思います。

ジョイセフらしいやり方で
世界の課題をひとつずつ解決していく。

ジョイセフでは、主に人材養成プログラムの開発と人材養成を行っています。例えば開発途上国の政府やNGOの関係者に日本に来てもらい、日本の母子保健が戦後どのようにして現在に至ったのかを学び、自分の国ならどうしていけばいいのかを考えてもらうための研修を行っています。今まで出会った人は70カ国以上およそ1100人、この出会いは財産です。

また現地では、女性の健康などセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス(SRH)の分野で活躍されているヘルススタッフやボランティアさんに研修を行っています。彼女たちが地元で、例えば妊娠の仕組みなどを、うまく地域の人に伝えていけるための教材を開発し、それを活用できるようになってもらうのです。

この研修は、国ごとにすべて内容が異なります。
というのも、地域でしか答えが見出せない課題というのは、国ごとにたくさんあります。だから国ごと、そして地域ごとに使える教材を作る必要があるのです。そして、教材をただ渡すのが私たちの仕事ではありません。ジョイセフの特徴は、現地のNGOなどカウンターパートと一緒に活動している点。教材を作ったら、きちんと現地の人たちが使えるように研修していきます。

例えば、各国ではエプロン型の教材を活用して地域のボランティアさんやピアエデュケーターが仲間に体のしくみを説明しています。身体のしくみだけではなく、SRHにまつわる迷信や誤った情報もしっかりとらえて正しい情報を伝えるように取りくんでいます。このような活動は日本であまり知られていませんが、この教材を見た人からは「日本でも必要ではないか」というお声を頂くので、日本語版使用書があってもいいかな、と感じています。

また、ミャンマーで実施した月経教育プロジェクトでは、女の子向けの冊子とお母さん向けの冊子をミャンマーの状況に合わせてそれぞれ作り、公立学校で授業をしました。その際、学校には電気が通っていませんから、現地関係者と討議を重ね、冊子を説明するための大判ポスターも作成しました。

ミャンマーでのこのプロジェクトは、今後は学校へ行く子どもたちが増えていくからきちんと公立の学校で月経教育を通して女の子のエンパワメントを進めることが必要ではないか、という政府の依頼もあって実施しました。時折感じる難しさは中央行政機関と地域とのバランスをとることです。

中央行政機関の人は男女一緒にやってほしいと言いますが、いざ実施の段になり現場に行くと、女の子だけにしてほしいとお願いされることもしばしば。どこの国でも、立場が異なれば見解も変わってくるのです。

つまり政府や行政機関の人たちは現場を十分に知らない、地域の人たちは政府や行政の思いを理解できない、という温度差をどう縮めるかが課題になることがあります。

どちらかに偏っては課題解決に進まないため、まずは実施しやすさを優先して現場の意見を採りますが、将来的に「男の子も巻き込みましょう」という提案も忘れません。教材も研修も、地域の実情に即したものを考え、地域の人と歩調を合わせて進めていく。これがジョイセフらしさではないでしょうか。

ジョイセフの経験値とここで得る学び。
そこから人のつながりも生まれる

「人というのは健康を願うものであって、人種とか肌の色とかは関係ない」という、ジョイセフの創設者である國井長次郎の言葉や、戦後の日本がどういう経験をして、どんな特徴を持って地域参加型で保健指標を改善してきたかという、日本人でもあまり知らないようなことをジョイセフで学べていることが素晴らしいと感じています。

自分が日本人であり、「地球人」であることを意識できる時間でもあります。日本生まれの国際協力NGOで、かつ母子保健の分野に特化した経験値がジョイセフにあること、また、日本はセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ分野で多くの課題を抱えていることをもっと大勢の人に知らせていきたいですね。

世界的なコロナ禍の中、研修はオンラインに切り替えて実施しました。しかしそれは物足りなさを感じるものではなく、「こんなに一体感が持てる、伝えることができる」という実感を得られた貴重な経験でした。

この経験をさらに前へ進めていけば、日本の支援者や関係者と各国の人とをオンラインでつなぐことができそうです。そんなすてきな時間をいつか実現したいと思います。

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