熊本地震被災女性・母子支援活動レポート
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2016年の4月に発生した熊本地震では、過去の大地震のような火災災害や津波災害がなく、震災地域が限定されていましたが、長期間にわたり余震が頻発したために、妊婦を含む多くの女性が出産や育児の不安に陥っていました。また、産後うつを疑う症状を示す産婦の人数が地震発生前と比較し2倍以上に増えたという報道もありました。このような背景の中、ジョイセフは、県助産師会や子育て支援関連団体との連携の下で、妊産婦支援、特に母親の心のケアに焦点を当てた支援活動を実施しました。

事業期間:2016年4月~2017年3月

事業内容

  • 1. 助産師の家庭訪問による産婦・乳幼児支援活動
    産後うつの疑いの高い産婦250名を対象に、助産師による母親の心的ケアや育児相談を実施しました。
  • 2. 母と子の癒し交流サロン活動
    お母さんや子どもたちの孤立感を解消し、積極的に外出できるようにするために、育児不安を癒す講演会や相談会、心の内を語り合えるサロン会など、さまざまな参加型プログラムを実施しました。
  • 3. 癒しのアイテムキット配付
    助産師の家庭訪問活動や母と子の癒し交流サロン活動の実施時に、企業協賛による癒しのアイテムキットを配付しました。
  • 4. 緊急相談窓口の開設
    東日本震災の経験に基づき、熊本震災後の女性の性的被害を予防するために、地元の男女共同参画センターとの協力により、緊急相談窓口や情報開示ホームページを開設しました。

活動報告

2016年の4月に発生した熊本地震は、1カ月程度経過した5月の中旬頃には震度1以上の余震が1500回に達し、過去最多を記録しました。同時期に、連日の地震に怯えながら過ごしていた産後1カ月前後のお母さんを対象に、産褥期のうつ病を検出するスクリーニング・テストを実施した結果、震災前の通常期に比べ、うつになるリスクが高いお母さんが2倍に増えたという報道が5月中旬にありました。

産後のうつ病の症状は、精神的に気分が落ち込んだり疲労感が募り無気力になる、生活の不安や育児の不安で涙もろくなり、自責の念が強くなる、まともに考えることができずに判断力が低下したり、焦りを感じたり死について考えるなどが挙げられています。

この深刻な状況になるのを予防するために、ジョイセフは下記のような支援活動を実施してきました。


① 熊本県助産師会との連携による産婦・乳幼児支援活動(家庭訪問)を展開

経験豊富な助産師がリスクの高いお母さんの家庭訪問や集団健診会場を直接訪問し、乳幼児の成長や育児相談をはじめ、お母さんを孤立させないための悩み相談など、心的カウンセリングケアを実施しています。
(5月から12月まで、延べ131件407名のお母さんの心的カウンセリングケアを実施し、現在まだ支援活動進行中)


② 熊本県助産師会および妊娠・出産・育児をサポートしている熊本市内の諸団体・グループの協力と連携により、お母さんと子どもを孤立させないために交流サロンの場を提供しました

2016年の5月より2017年の1月まで、22回にわたる母と子どもの癒し交流サロンを開催し、延べ491名のお母さんが参加しました。
「参加してよかった。一歩前に踏み出すことができた」など、多くのお母さんたちの感謝の声がありましたが、2017年1月末日をもって支援活動を終了することになりました。

開催日 曜日 開催場所 主な活動内容
2016年
5月26日
さくらんぼ保育園
(熊本市東区広木町)
カラーボトルからひも解く遊びの癒し交流サロン
6月1日 さくらんぼ保育園
(熊本市東区広木町)
長い避難生活から久しぶりにゆっくり話せるママと子の癒し交流サロン
6月21日 八代市コミュニティカフェ KOKIN(八代市松江町) 妊婦から子育て中のお母さんが対象のお茶会とおんぶ紐の体験会
6月26日 やまなみ子ども園
(熊本市東区広木町)
骨盤ケア体操、育児相談、おっぱいマッサージ、ハンドマッサージ、沐浴、足浴、などの癒しサロン
6月28日 保健福祉センターかがやき館
(熊本市北区植木町)
参加者同士が、体を動かしたり、コミュニケーションがとれる遊びを入れた癒し交流会
7月6日 yoga shala mana
(熊本市東区広木)
第1回おにぎりと味噌汁の会、母乳によい食事を提供、授乳相談、育児相談
7月16日 熊本市現代美術館
(熊本市中央区上通町)
ママタレントのくわばたりえさんを迎えた、笑顔にしてくれるトーク
7月30日 コミュニティスペースas a café
(熊本市東区山ノ内「あやの里」内)
体操で体をほぐしたり、アロマでリラックス
8月27日 コミュニティカフェ COMMUNE6
(熊本市東区戸島西)
耳つぼジェリーの体験を通じ、体の発達、心の愛着形成などの話
8月31日 熊本市東区秋津レイクタウン内 第2回おにぎりと味噌汁の会、母乳によい食事を提供、授乳相談、育児相談
9月22日 熊本市流通情報会館
(熊本市南区流通団地)
育児中ママを対象にした渡部信子先生の講演会(母子の体のケアについて)
9月27日 臨時オケタニ式母乳相談室
(熊本市東区秋田町)
第3回おにぎりと味噌汁の会とベビーマッサージ
10月8日 えびすCAFÉ
(熊本市東区広木町)
耳つぼジェリーの体験を通じ、体の発達、心の愛着形成などの話
10月16日 阿蘇熊本空港ホテル「エミナース」
(上益城郡益城町)
「子育て応援カフェ bee happy」の小児科医 江崎真澄さんの「お母さんが楽になる子育て」の講話と助産師による癒し、語り場のイベントを開催(益城町)
11月6日 「リフレッシュ・ハッピーアワーin熊本
(リストランテ・ミヤモトと地元酒蔵の協力)
(熊本市中央区辛島町)
被災母子・女性を支援する従事者たち(熊本県助産師会に属する助産師、男女共同参画センター職員、子育て支援団体の運営者)を対象に、支援活動の振り返りと進捗報告
11月23日 リゾラテラス天草
(上天草市松島町)
初の天草での開催。お母さんたちを癒す時間を過ごすアートとファッションのコラボイベントを開催
11月24日 「LADY TALK」in 熊本
(熊本市男女共同参画センター、熊本市中央区黒髪)
ジョイセフのアクティビストを迎え、お子さんを持つお母さんたちとのLADY TALKと健康美ウオークのイベントを開催
12月8日 ややの湯
(熊本市北区植木町)
温泉施設での初めての開催。足圧式やほぐしのマッサージでママたちを癒す企画
12月21日 コミュニティスペースas a café
(熊本市東区山ノ内「あやの里」内)
熊本出身のインテリアスタイリスト津田晴美さんを迎えた講演活動
2017年
1月18日
えびすCAFÉ
(熊本市東区広木町)
水だけで離乳食ができる米粉の離乳食講座を開催
1月27日 ややの湯
(熊本市北区植木町)
わらべうたで、おうちから出にくい寒い季節を乗り切ってほしいとわらべうたの講師をゲストに企画
1月28日 熊本県助産師会館
(熊本市中央区本山)
漢方サロンの先生による「笑顔溢れる子どもたちの育て方」の講演

参加したお母さんたちの声(一部)

  • 震災時、1カ月だった娘を連れて初めて外出しました。皆さんの体験話しを聞き、辛いのは自分一人ではないことが分かり、ほっとしました。楽しかった。

  • 実家が被災し、色々心配で家から出ないことが多かったが参加できてよかった。

  • 震災で生き残った金魚の話をしてくれた方がいらして、みんなが勇気づけられた。

  • 助産師さんのお話しや、皆さんの子育ての話が聞けて、少し気持ちが楽になった。

  • 皆さんとお話が出来て、思い切って出てきて良かった。

  • 家にばかり閉じこもりがちだったが、体操やハンドマッサージが気持ちよく、楽しかった。

  • 子どもも楽しく過ごせた。ほかの場所でも開催してほしい。

  • 家にばかりいると、イライラして、子どもといるのがうっとうしく思う。自分に自信がなくて…と涙。今日のサロンで、外に出るきっかけになった。

  • 地震後、人見知りとかぶったのか、子どもとくっついていないと大泣きするので、困っている。人の中に入る機会があり、良かった。

  • お母さん同士のいろいろな話が聞けて、とてもよかった。勇気が出ました。

  • 震災後、母乳が詰まりそうな食事が多かった。食事内容を考えるいい機会になった。

  • 不安だった子育ての相談や生活情報が聞けて良かった。

  • くわばたさんの体当たりの子育てメッセージをもらい、周りのお母さんたちにも伝えて行きたいと思いました

  • 少し遠かったが思い切って参加してよかった。子どもも喜んでいて一緒に笑顔になることができた。

  • 地震後、イライラすることが増えて、子どもに八つ当たりしている自分が嫌だったけど、みんなと話せて、辛いのは私だけじゃないんだと思えて、気持ちが落ち着きました。

  • おしゃれとか、自分ケアとか、すっかり忘れる毎日だったので、リフレッシュできました。

  • 江崎先生の温かいお話で、育児が大変なのは自分だけではないとほっとしました。

  • 震災時はまったく想像してなかった、今こうしてこの場にいること、この子と笑い歌えることに感謝です。何が起こるかわからない時代ですが、赤ちゃんをしっかり抱きしめながら、これからの子育ても楽しんでいきます。

  • プラスチックの食器について考えさせられました。地震で割れてしまったので、大人のものも割れないものにしようと思っていましたが、割れるものを与えることで、物を大切にする心が育つんだなと思いました。

  • 地震後辛いことが多く、子育ては、不安ばかりでしたが、少し楽になりました。今を受け入れる勇気をいただくことができました。このような機会をありがとうございました。

  • お話を聞かせていただき、心が浄化されたのか、涙が出ました。「ありがとうの力」を日々の生活の中に生かしていけるようになりたいと思いました。