人口問題協議会・明石研究会シリーズ  「多様化する世界の人口問題:新たな切り口を求めて」 3 前編

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2011.7.8

2011年5月3日に発表された国連世界人口推計(2010年版)によると、世界人口は、今年10月31日に70億人に達し、2050年に93億人になると考えられています。
人口問題協議会では6月8日、世界人口70億人の課題や今回の人口推計の意味するところを考えるために、シリーズ第3回目の研究会を開催し、専門家・ジャーナリスト・オピニオンリーダー・NGO代表など28名の参加の下に議論を深めました。発表者が日本代表として出席した4月の国連人口開発委員会での論点も合わせて報告され、人口と開発に関する課題が示されました。

■テーマ:「国連人口推計(2010年版)発表を受けて」
■発表者:高橋重郷(国立社会保障・人口問題研究所副所長)
■進行役:阿藤誠(早稲田大学特任教授・人口問題協議会代表幹事)

概要は、以下のとおりです。

1.世界人口の動向

2010年版の新人口推計は、2月にドラフトができた後、2010年に数カ国で出された国勢調査の結果との調整を経て、ようやく5月3日に公表された。従来の人口推計では2050年までの予測だったが、今回初めて2100年までの数値が示された。その中位推計の結果によれば、今年10月31日に70億人を超え、2083年に100億人を突破し、2100年には101億人に達するという見通しである。

なお、これらの推計結果は、国連人口部のホームページから、エクセルの表形式でダウンロードが可能である。
http://esa.un.org/unpd/wpp/Excel-Data/population.htm

グラフの中の破線は2005~2010年の各国の合計特殊出生率の水準が固定した場合を前提とした世界人口の推計値で、今後急激に伸びて行く。途上地域の人口が世界の中でシェアをどんどん伸ばしていくから、分母が大きい状態の中で現在の高い出生率で人口再生産が続く場合、2100年に268億4000万人という巨大な人口となる。

上から3番目の線が表わす中位推計の結果は比較的楽観的な数字で、2050年までにすべての国の出生率が人口置換水準である2.1に向かうという前提に立っている。

2. 先進諸国と途上地域・最貧地域

開発区分別の人口推計の結果を見ると、先進諸国は10億人を超えた水準で平らになっている。最貧国の人口を除いた開発途上国は出生率がまだ高いところがあるため今後も2050年まで人口は増加を続けるが、その後は減り始める。中国の人口も2030年をピークに減って行く。最貧国の人口は今後も急速に増加し、2050年以降の増加のほとんどは最貧国の人口増化によってもたらされる。なお、この図に示した3区分別(先進諸国、最貧国を除く途上国、最貧国)人口はそれぞれ人口を積み上げて示してある。

2010年の人口を100とする指数で表すと、最貧国では2100年に323.3、つまり2010年に比べるとほとんど3倍以上の人口になる(60年前の1950年は23.6にしか過ぎなかった)。最貧国を除く途上地域の人口に関しては、これから伸びるのは126.3であるからそれほど大きな伸びを示さない。人口増加の最も大きな焦点は、最貧国に効果的な国際援助をしていく協力関係が築けるかがキーポイントとなる。

先進諸国、最貧国を除く途上地域、最貧国の3つの区分で高齢化を比較してみる。2010年の先進諸国の高齢化は15.9%、日本は22%を超え、急上昇しており2050年に27%台まで上昇する。日本・ドイツ・韓国は2050年レベルでいうと、30%を超える。

最貧国を除く途上国の高齢化の上昇をみると、先進諸国以上の速いスピードで伸展が起き、今後も続く。一方最貧国については、出生率が高く若年人口が多いため人口高齢化の伸展は比較的遅く、2050年でも7~8%程度、日本で言えば1970年以前の高齢化状態が2050年頃に表れる。

人口構造はピラミッドで見るのがわかりやすいので、図で示す。先進諸国、最貧国を除く途上地域の高齢化、最貧国の人口を重ねて表わしている。

2010年はまだ25歳以上の部分がピラミッドの形状を維持している。

2050年になるとピラミッドは上のほうに姿をとどめている程度で、先進諸国と最貧国を除く途上地域の出生率が低下して置換水準に近づいてくるので、分銅型になっている。

2100年には、ピラミッドは中央アジアの寺院のような形になる。そこに占める最貧国の人口が多いことが見てとれる。最貧国だけの人口ピラミッドをみると、2010年も2050年もピラミッドの形状はほとんど変わらず、人口爆発が起きた最初のころの人口構造と全く同じである。そして高い出生率のもと、子ども世代が3倍、4倍に増えていくから、そこで人口爆発が引き起こされる。

15~24歳人口が1950年ベースにどれくらい増加したかを示している。図では1950年を100としている。若者人口は先進地域では増えない、最貧国を除く途上地域では2010年で1950年の3倍になっている。

推計結果が示すように、最貧国では、今後15~24歳の思春期・青年期人口がきわめて顕著に増大していくと推計されている。なぜ15~24歳人口の動向に注目がされ、国際人口開発会議でも大きなテーマとなっているのかといえば、性的に最もアクティブな年齢層の人口が、歴史上の最大の人口となってきつつあることである。その年齢層の人口が、開発が不十分で、保健や健康にかかわる社会インフラが未整備な社会の中で増えるとHIV/エイズ、妊産婦死亡、安全でない人工妊娠中絶、中絶が増え、妊産婦死亡が増えることになる。15~24歳人口の増大という潜在的な脅威の拡大が、地球上に起きつつある。

3. 主要先進諸国とアジア地域の人口

先進7カ国と中国・韓国・インドのアジア地域の人口と出生率について、国連推計から見てみたい。先進7カ国とアジアの国々の合計特殊出生率は長期的にみて、2100年にほぼ2.1に達するものと仮定されている。ただしインドだけは1.88と少し低い。このような出生率低下は、人口高齢化を帰結することになる。

主要国の高齢化率は図のとおりである。先進7カ国の中では現在の合計特殊出生率が1.5未満の日本、イタリア、ドイツは飛びぬけて高齢化が進むが、日本以外は移民を受け入れているのでそれらの国ほど高齢化は進まない。急速に高齢化水準が追いついてくるのは韓国で、2050年には日本に近い水準になる。またそれから遅れて、中国も高齢化水準が急速に上昇し、追いついてくる。

こうした人口高齢化の一方で、20~64歳の働き手人口は、人口全体に占める割合を急速に縮小することになる。インドだけは例外的で、現在の2.5を超える高い合計出生率のもと、出生率は低下傾向にあっても、働き手人口の占める割はここで比較した他の国々とは全く異なる動きである。

世界の人口問題、とくに最貧国や途上国の人口問題についてまとめると次の課題がある。

  1. 経済:低賃金・失業・貧困・低成長
    経済に関してボンガーツ教授の言葉を借りれば、「最貧国の人口問題解決なくしては世界の人口問題の解決はあり得ない」。
  2. 環境:資源の枯渇・汚染
    これまでの成長は資源が豊富にあって、先進国も途上国も分配が確保されていた。途上国が成長しようとする時には資源がない。さらに汚染の問題がある。
  3. 健康:妊産婦・乳幼児の高死亡率
    高い妊産婦死亡率の背景には家族計画に関するインフラが整備されていないこと、アクセス、安全な中絶の問題などがあり、乳幼児死亡率が高くなる。そうすると次の妊娠に向かい、産むという悪循環がある。
  4. 社会政策:投資の不足~教育・保健サービス・社会基盤
    成熟したシステムがないために教育・保健サービス・社会基盤、すなわちインフラそのものが行き届かない。
  5. 政治:強権的政治志向・国内政治勢力の対立・政治的不安定
    民族対立を生み出し、相互に作用しあって途上国の人口問題の解決を遅らせるという構造問題がある。これに対して世界がどのような協力スキームを築いて、特に最貧国の支援をするのかが大きな課題である。



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