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性行為には、相手の「Yes」を確認することが必要。「性的同意」を根付かせて性暴力のない社会へ【国連「UPR審査」ジェンダー・SRHRに関する人権改善勧告 院内勉強会⑤】

2023.6.27

一般社団法人 Spring 渡辺 由希


 
国連人権理事会は、人権侵害を防止し、総合的な政策ガイダンスを提供し、新しい国際規範を発展させ、世界のいたるところで人権順守を監視し、加盟国が人権に関する義務を果たせるように支援する機関です。(国連広報センター引用)

国連人権理事会では、全ての国連加盟国の人権状況を定期的に審査する仕組みがあります。この審査はUPR(普遍的定期的レビュー)と呼ばれ、4年半ごとに行われます。
2023年1月末に開催されたUPR日本審査に向けて、ジョイセフは国内外の8つの市民団体* と共同で、日本国内のSRHR(性と生殖に関する健康と権利)の課題をまとめた報告書を2022年7月国連に提出しました。

2023年7月には、第53回人権理事会で勧告採択が行われます。それに先立ち、日本政府に勧告を「受け入れる」採択を求めるため、ジョイセフと「#なんでないのプロジェクト」の主催で、共同レポートを執筆した市民社会が集まった勉強会を、衆議院第一議員会館にて行いました。

この記事は、市民レポート共同執筆団体のひとつ「一般社団法人Spring」の渡辺由希氏による発言をまとめたものです。性暴力被害当事者および支援者の団体として、今国会(2023年6月21日会期終了予定)で審議中の性被害に関する改正法律案を歓迎するとともに、改正案の問題点についても指摘しました。積み残された課題に国と市民社会が力を合わせて取り組み、性暴力をなくしていきたいと述べています。

*8つの市民団体:#なんでないのプロジェクト、#緊急避妊薬を薬局でプロジェクト、SOSHIREN 女(わたし)のからだから、LGBT法連合会、一般社団法人Spring、持続可能な社会に向けたジャパンユースプラットフォーム(JYPS)、Sexual Rights Initiative、Asia Pacific Alliance for Sexual and Reprroductive Health and Rights
 


 

「同意なき性行為」を性暴力の本質として認めた「不同意性交等罪」への罪名改正を歓迎

私たちは、性暴力被害当事者および支援者の団体として、性被害の実態に即した刑法の改正を求め、国会や政府機関に被害実態や被害者の声を届けてきました。

現在、日本の国会では刑法性犯罪規定の改正法律案が審議されています。改正案では、相手が同意していない性行為を処罰するとして、罪名が「不同意性交等罪」になります。「同意しない」という意思の表明を困難にさせる、あるいはそれに乗じで性行為を行うことが処罰の要件となりました。「同意のない性行為は性暴力の本質である」と認められたのです。

私たちはこの大きな前進を歓迎し、今国会での成立を強く望んでいます。一方で、この改正案には課題もあります。

性犯罪被害の実態から見えた、刑法改正における二つの重要な課題

課題の一つ目は、公訴時効の更なる延長です。改正案での公訴時効は、現行法から5年延長され、不同意性交等罪で15年となりました。この根拠として法務省は、2020年の内閣府調査の結果を示しています。調査では、性被害があったと回答した142人のうち、被害を誰かに相談したと答えたのが52人。その大多数が相談した時期を5年未満と回答しました。

しかし、この結果をもって5年延長とするのは妥当ではありません。なぜなら、被害を誰にも相談していない、約6割の回答者の存在を無視しているからです。

約6割の回答者が、調査回答後に誰かに相談する可能性を考慮すれば、より大幅な延長の必要性すら示唆されています。公訴時効を大幅に改正したドイツやフランスの例に倣って、日本政府も国が主導する大規模な実態調査を行い、被害実態に見合った公訴時効となるよう検討を行うべきです。

課題の二つ目は、「Yes Means Yes型」への転換です。改正案の不同意性交等罪は、適切に運用されれば、「No Means No型」と評価しうるものです。しかしそれだけでは、今と同じように、被告人に故意がないとして無罪になる事案が後を絶たないのではないかと危惧しています。

性的同意は、アクションを起こす者が相手方に確認を取るべきものです。同意を確認しなかった場合は処罰されるという「Yes Means Yes型」の刑法は、海外で実現してきており、日本でも見習うべきです。
幸いなことに、こういった課題を踏まえ、衆議院では法案修正がなされました。「施行後5年を経過した場合、政策のあり方についての検討を加える」という、期限を明記した見直し条項です。

まずは今国会で改正案が成立すること、そして、附則に明記された施行後の検討や調査を確実に実行すること。それに伴って啓発を行い、性的同意の概念を社会通念として日本に根づかせていくこと。そういった一つ一つの歩みを止めず、性暴力のない社会に向けて、今後も力を合わせていけますと幸いです。
 

※追記 ー2023年6月21日に通常国会の閉会を迎えてー

2023年6月16日、参議院本会議で、刑法・性犯罪法改正法律案が可決・成立しました。
Springの6年間の活動が実ったことを、心から歓迎します。
Springでは引き続き、新刑法の運用状況をきびしく注視していくとともに、見直しのための実態調査等がすみやかに実施されることを強く願っています。引き続き、新刑法の運用状況をきびしく注視していくとともに、見直しのための実態調査等がすみやかに実施されることを強く願っています。
何より、これまでともに声をあげてきた性暴力被害当事者の皆さま、そして支援をしていただいた多くの皆さまに、改めて深く感謝申し上げます。

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